過去2年の所得金額が1700万円以上、継続的に保有する資産の額が7500万円以上……。その他にも様々な条件が設けられ、限られた人物しかなることのできない“個人馬主”の世界。彼らは自身の所有する馬をどのように管理し、どのような思いでそのレースを見守っているのだろう。

 競馬ライターの小川隆行氏、競馬ニュース・コラムサイト「ウマフリ(代表・緒方きしん)」が共編を務め、新時代を彩った多士済々なレジェンドホースたちの名勝負をまとめた『競馬伝説の名勝負 2005-2009 ゼロ年代後半戦』(星海社新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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マイナスを少なくするには……

「自分が名付けた馬が1着でゴールを駆け抜ける。あの瞬間が何よりも嬉しいんです」

 個人馬主であるAさんはこう語った。馬主になって15年以上。いまだに少年のように瞳を輝かせながら愛馬のレースを見つめている。「今週の新馬戦に出ます!」と連絡をもらうと、筆者も自分の馬のような感覚に襲われ、無我夢中で応援してしまう。

©文藝春秋

 しかし。年に1~3頭ほどの所有であるAさんは、愛馬の勝利を5年以上味わっていない。所有馬の平均価格は100~300万円。「走る価格ではない」のは明らかで、厩舎や騎手もリーディング中位以下だ。「1頭あたりの預託料は平均して月60万円。JRAの出走手当てが43万円(配分は80%)なので、月に2走で元が取れます。ここに本賞金や出走奨励金などが着順に応じてもらえるため、マイナスを少なくするには、丈夫で堅実に走ってくれるのが一番です」

回収率が200%になるような馬は1000頭ぐらい

40数頭を所有してきたAさんの、競馬における収支を尋ねると「最初はオープン馬を所持できてプラスだったけど、10年目を過ぎてからはマイナス街道一直線(笑)」とのことだ。

 年間に生産される約7000頭のうち、収益がマイナスにならない馬(目安として2勝以上)は約6頭に1頭程度。確率にして10~15%。「購入価格1000万円で倍の2000万円を稼ぐ、つまり回収率が200%になるような馬は1000頭ぐらい」とAさん。