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「こんにちは、以前お見かけしたことがありますよね?」

 何軒か店先を通りすぎると、坊主頭で60代と思しき男性が、他店とは違った声の掛け方をしてきた。

「こんにちは、以前お見かけしたことがありますよね?」

 客に興味を持ってもらう常套手段なのだろうか。何となく、この男性に興味を覚えたので、店に入ることにした。

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©八木澤高明

 店に入ると、客が来たと期待を持たせても気の毒なので、吉原には取材で来たこと、緊急事態宣言解除後の様子を知りたいと伝えた。彼は、特に拒絶するような素ぶりを見せず、「あぁ、前も来ていますよね。だから見覚えがあるんだ」と、ひとり呟いた。

 確かに、半年ほど前にこの通りを歩いてはいるが、この場所を訪ねるのは初めてだ。私が通り過ぎた時のことを彼は記憶しているのだろうか? それならば、よっぽどこちらの風体が怪しくて、記憶に残っているのかもしれないなと思った。

吉原10年近く、今回のコロナが一番ひどいダメージ

 男性の名前は田畑さん。案内所を開いて7年になるという。それまでは、ソープランドの従業員をしていた。

「ソープランドで働いている時から合わせて吉原では10年近くになりますが、今回のコロナが一番ひどいダメージですね。10月になって、緊急事態宣言があけてすぐぐらいは、コロナが終わったみたいな感覚で、解放感というんでしょうか、お客さんがポロポロと来ていました。でも、結局以前のようには戻ってないですね。やっぱり厳しい状況ですよ。どこも半分ぐらいに減っています。コロナ前は、中国や台湾、韓国といった外国のお客さんも多かったですけど、そうした人たちも来なくなりました。今でも外国人のお客さんはいらっしゃいますが、日本に暮らしている人たちですね。めっきり減って寂しい限りです」

©八木澤高明

――吉原のお店は全体が厳しい状況ですか?

「そういうわけではないんですよ。手頃な3万円や4万円の店も厳しいですし、中間の価格帯から高級店がやはり厳しいですね。コロナが流行り出してからは、収入が減った人も多かったんじゃないですか。コロナ前から比べたら、2万円ぐらいの大衆店に人気がありますね。コロナちょっと前からですけど、これまでは低価格の店は吉原全体の3分の1ぐらいだったんですけど、いまでは半分ぐらいがそういうお店になってしまいましたね」

 その話を聞いて、江戸時代の吉原において、太夫と呼ばれた最高位の遊女が、時代の流れとともに消え、格式が薄れていったことを思い起こさせた。色街の流れは、今後も安さを求められる時代が続いていくのだろう。

――女性たちの入れ替わりも激しくなったんですかね?

「店の人間ではないので、詳しいことはわかりませんが、キャリーバッグを引いて、仕事を求めて地方から出てきたのかなっていう女の子は、以前より見かけるようになったなという気はしますね」

 果たして、実際に働いているソープ嬢たちは、どのように感じているのか。2021年2月に私は真理子というソープ嬢にインタビューをしているが、彼女に連絡を取ることにした。