2021年10月1日に解除された緊急事態宣言。
さらに11月に入ると新型コロナウイルスの新規感染者は、一日に2桁ほどまで下がった。長かったコロナ禍の生活からも、ようやく抜け出せるような兆しが見えてきた。
私は、昨年末から文春オンラインで、和歌山の天王新地、大阪の泉の広場、群馬県の伊香保、札幌のススキノ、東京の吉原といったコロナ禍の色街を訪ね、そこで働く女性たちに話を聞いてきた。
いま、ようやく新型コロナウイルスの流行がひと段落したとき、ふと考えたことがある。これまで話を聞かせてくれた女性たちは、一体どうしているだろうか? 客足は以前のように戻りつつあるのか。それとも変わらず、冷え込んだままなのか――。
そんな疑問を胸に抱いて私がまず足を運んだのは、400年の歴史がある東京の色街・吉原だった。(全2回の1回目/続きを読む)
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「良くないですよ。いい時の半分にもいきませんよ」
地下鉄日比谷線の三ノ輪駅から住宅街を抜け20分ほど歩くと吉原に着く。
訪ねたのは平日の昼間だったのだが、今年の2月に歩いた時と比べ、メインストリートである仲の町通りには、客の男たちを乗せた送迎のワンボックスカーも多く行き交っているように思えた。
仲の町通りを吉原神社の方向に歩いて、京町通りに入ると、小さな公園の前にタクシーが1台止まっていた。運転手さんと思しき男性が、車の外で缶コーヒーを飲みながら休憩していた。「タクシーは景気のバロメーター」という言葉があるが、コロナ禍を経て果たしてどのような影響が出ているのだろうか。気になったこともあり、昨今の景気について問いかけてみた。
「良くないですよ。(緊急事態宣言が)解除されても変わらないですね。それは、吉原だけじゃないですけどね。平日は、銀座だとか都心を中心に回っていたんですけど、向こうは競争が激しくて、さっぱりだから、吉原に来ているんですけど、いい時の半分にもいきませんよ」
――吉原には以前から来ていたんですか?
「コロナ前は、土日に来ていたんですよ。コロナが流行りだしてから、ぱったりダメになったから、しばらく来ていなかったんです。緊急事態宣言が解除されてから、銀座よりは競争が激しくないから来るようになったんですけど、お客さんは戻って来てないですよ。土日だって、あんまり人が歩いてないからね。コロナ前には吉原で、土日やれば4万円は稼げたんですけど、とてもじゃないけど、その数字には届かないですよ」
まだまだ新規感染者の減少による恩恵は受けていないようだった。
吉原には喫茶店のような店づくりをした案内所が何軒もあるが、そのうちの一軒にも飛び込んで話を聞いてみることにした。
いくつかの案内所の入り口には、たいがい男がひとり立っていた。どの店にも客の姿はなく、その前を歩けば、「ご案内できますよ」、「お店決まっていますか」などと声をかけてくる。