経済成長こそが最大の課題
辻田 それは、より国民民主とか維新に近い方向性に行くということですか。つまり、より中道の国民政党を立民は目指すという発想なんでしょうか。しかし、自民党も岸田政権になってから、しきりに「分配」を叫んでいますよね。田原さんは岸田さんの「新しい資本主義」をどう評価しているんですか。
田原 まずアベノミクスを振り返りたい。立憲は、アベノミクスは失敗だと言うけど、じつは安倍さん自身が失敗だと分かっていた。2018年、安倍さんが3選された後、当時の経団連会長の中西、トヨタの社長、経済界のトップたちは皆、日本の経済にすごく危機感を持っていた。このままだと10年先、日本の企業は持続できない。日本の産業構造を抜本的に改革しなきゃいけないと。
安倍さんもそのとおりだということで、当時、彼が一番信用していた西村を経済再生担当大臣にして改革しようとした。ただ途中で安倍さんがやめて、菅政権が、竹中平蔵と(デービッド・)アトキンソンを中心にして成長戦略会議というのをぶち上げた。これは安倍内閣と全く関係ない。僕は竹中平蔵も親しいので、「これはなにか」と聞いたら、竹中平蔵は「これでは日本の経済はよくならない。だから、わが内閣は安倍内閣とは全く違う経済戦略を構築したいと言った」と。
辻田 でも、菅政権は短命に終わった。その次の岸田政権はそれまでと違った経済政策を訴えて、今回選挙で勝ったわけです。田原さんは岸田さん自身とお会いしたことは何度もおありだと思いますけれども、決断力、政治の実行力に関してはいかがですか。
田原 意欲はある。ただ、中身がない。つまり、アベノミクスがなぜ経済成長できなかったのか。そのためにはどうすればいいかと考えなきゃいけない。安倍は分かりやすかった。彼がやりたかったのは二つなの。憲法改正とデフレからの脱却。菅さんは何がやりたいか、分からなかった。岸田は、経済成長と分配と言っている。ところが、アベノミクスが失敗しているんだから、どうやって経済成長させるか、ここが問題だ。
自民党派閥はなぜ力を失ったか
辻田 一方で、岸田さんというと、清和会である安倍さんと違って政治的にはリベラルな宏池会だと言われていると思います。田原さんに聞きたいのは、昔は派閥の影響力があったのは分かるんですけど、今日、どのくらい自民党派閥の影響力はあるものなんでしょうか。
田原 はっきり言って、ない。これはじつは僕にも責任がある。後藤田正晴って知ってる?
辻田 はい。
田原 後藤田に2日間説得されたのよ。彼は中選挙区制はどうしても金権政治になることを問題視していた。
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田原総一朗氏と辻田真佐憲氏による文藝春秋ウェビナーでの対談動画「自民党“大宏池会”の逆襲がはじまる!? 日本の派閥政治はいつまで続くのか」、および対談録全文は、「文藝春秋 電子版」でお楽しみいただけます。