ドラマ『最愛』。次つぎ起きる凄惨な事件を描くスピード感に拉致されて、夢中で観ている。

 二〇〇六年の岐阜県、白川郷から物語は始まる。高校三年生の梨央(吉高由里子)と、大学陸上部のエース、大輝(松下洸平)は淡い想いを寄せ合っている。

 梨央の父(光石研)は白山(しろやま)大学陸上部男子寮の寮夫だ。台風の夜、父と大輝が不在のとき、渡辺康介という素行の悪い大学院生が寮に女らも入れ、騒ぎ始めた。咎める梨央の一瞬の隙をつき、渡辺は彼女のスープに粉末を入れる。

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 昏倒した梨央が目覚めると、弟の優と一緒に布団に寝ていた。腕に擦り傷の痕。が、父は「ゴメンナ。俺の帰りが遅くって」というだけだ。父の片付け物の中に血まみれのシャツが。誰もが口を噤んでいる。

吉高由里子 ©文藝春秋

 翌日から渡辺の姿は消えた。アタシは何をされたのか。暗い表情の梨央を、大輝は抱き寄せ「頑張れ」と励ますしかない。「大ちゃん」と涙を流す梨央。

 そして十五年がたった。電話やメールの連絡も途絶えた梨央と、大輝は再会する。大輝は警視庁捜査一課の刑事だ。そして梨央は介護と創薬を手がける大手、真田ウェルネスの社長だ。

 弟の優は外傷による脳の機能障害がある。梨央はその症状を治す薬を創るため薬学部に入った。父は事件の直後にクモ膜下出血で急死した。この死因も、私は納得できない。梨央の実母真田梓(薬師丸ひろ子)は介護ビジネスで成功し、梨央は豪邸で一緒に住むことに。

 十五年前に失跡したレイプ魔の渡辺康介の遺体が発見され、失跡した息子を探す父の昭(酒向芳)の死体も世田谷区の池で発見された。昭が「ウチの息子、知っとるじゃろ!」と、梨央の会社に押しかけた直後だ。

 渡辺昭の死を捜査する大輝は、参考人として梨央と対面する。「十五年ぶりに見る彼女は、その笑顔も立場も、俺を見る目も、何もかもが違っていた」と静かに語る大輝の声が切ない。

 梨央は母の梓が経営していた真田ウェルネスの新社長だ。事件の真相を知るため、大輝は昔の梨央の電話番号に掛ける。梨央の携帯の画面に「大ちゃん」の文字が。二人とも十五年、番号を変えてなかった。

 居酒屋で向き合う二人。帰り道、梨央が「大ちゃん、私、やっとらんよ」「信じるよ、オマエじゃないこと。俺は証明してみせる」。梨央が胸にすがりつく。大輝の手がアップに。抱くかどうか迷ううち信号が青に。

 やっと故郷の言葉で話せるようになった二人が切なく、愛おしい。四話の時点では、家を出た弟の優が、渡辺父子を殺した犯人とされたが、謎は残る。母も秘密を隠している。

 二転、三転。まだ人は死ぬだろう。梨央が「大ちゃん」に笑顔を見せる日はくるのか。文句なしの傑作。

INFORMATION

『最愛』
TBS系 金 22:00~
https://www.tbs.co.jp/saiai_tbs/