主演に妻夫木聡、そして共演女優に吉高由里子を起用した『危険なビーナス』が、過剰なほどのスピード感あふれる展開で見せる。
原作は東野圭吾。獣医師の手島伯朗(妻夫木聡)の前に、伯朗の異父弟である矢神明人(染谷将太)の妻と名乗る矢神楓(吉高由里子)が突然現れる。明人、いつ結婚してたんだろ。
資産三十億円超の矢神家の現当主・康治は危篤で、一族は遺産相続を巡って一触即発の状態だ。祖父の康之介は長男の康治亡き後は、孫の明人に全資産を相続させる遺言書を作っていた。
その明人が失跡し、拉致された疑いもあるから「お兄さま、明人君を探すの、手伝って下さい」と楓はすがりつく。結婚の実態も、拉致だか失跡の経緯も怪しい。でも「お兄さま、お願ぁーい」とコケティッシュに懇願されると、美人に弱い伯朗は断れない。
そんな情けない伯朗を、妻夫木君が好演。ニヤケる彼に「楓さんには、気をつけて下さいね」とクールに忠告するのが、動物看護師の蔭山元美(中村アン)だ。有能で動物好き。感情に流されず冷静な対応ができる。格好いいんだよ。
初回からその演技に魅了されたが、回を追うごとに蔭山君の存在感は増し、善人で誠実だが、女性に甘いダメダメな動物病院副院長の伯朗に的確な助言を与えて、いまや中村アンを中心にドラマは動いている。
金と色。欲望の魔窟である矢神家は、怪しい人物ばっかりだ。特に康之介の次女、祥子(安蘭けい)なんか、危篤の康治を平気で殺そうとする。康之介の愛人にして養子である佐代(麻生祐未)と息子の勇磨(ディーン・フジオカ)も、金のためなら何でもする。
楓は本当に明人の妻か。明人はどこに監禁されているのか。そして伯朗を連れて康治と結婚した母の禎子(斉藤由貴)の浴槽での事故死は、実は殺人だったかも。謎は広がるばかりだ。
伯朗の実父である手島一清(R-指定)は画家だったが脳腫瘍を患う。脳に電流を流すという危険な治療を医師の康治が試みた。絵が描けるまでに回復した一清だが、作風は一変し、サヴァン症候群を思わせる精緻な細密画を描きだす。その絵はフラクタル図形だ。
康之介の次男・牧雄(池内万作)は「三十億円より価値ある物が、この家には隠されている」と喚いたが、数学界最大の謎を解けば、巨万の富が手に入る。謎は新たなフェーズに。
謎また謎の展開。さらに笑いもびっしり。楓も牧雄も階段やエスカレーターから突き落とされる。矢神家では階段落ちが定番だ。
楓と蔭山君の間で揺れ、二人との恋愛を妄想するシーンで毎回笑わせる伯朗。妻夫木君や私を惑わす中村アンのクールな表情と笑いが最大の収穫だ。中村アン、ブレーク必至だ。
『危険なビーナス』
TBS系 日 21:00~
https://www.tbs.co.jp/kikenna_venus/