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強烈なルサンチマンを抱えた人は「救われない」

早見 そういった意味も含めて、「すごみ」を感じた政治家はいましたか?

三浦 とてつもないネガティブなパワーを感じたことはありますね。

早見 政治家として、そこに期待感はわきますか?

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三浦 冷静な頭脳レベルでいうと、わきます。ですが、私は政治記者ではないので、どうしても、人間として救われそうか、救われなさそうかという視点になってしまいます。強烈なルサンチマンを抱えた人は、「救われない人」かもしれませんが、ある意味ホンモノでもあると感じますね。

早見 何人くらい思い浮かびますか?

三浦 …3人くらいかな。

早見 与党ですか? 野党ですか?

三浦 まあ主に与党ですね。野党は今、揺らいでいる状態で、そこまでの方は…。

 

早見 政治家と仕事をしていく中で、彼らと親しくなることへの危険性を感じたりしていますか?

三浦 いえ、それはないですね。私は記者じゃありませんから。情報を取ったり何か見返りを得るために、政治家と付き合うことはないんですよ。コロナ禍においては、「こんな仕事をしてほしい」と要請したことはありますが、それは彼らの職責ですからね。政治家は観客がいて初めて成立する職業です。政治を追いかけるマスコミも、彼ら自身が必要としているのです。私は政治を観察するけれども、利害関係を持たないで比較的本当のことを言えるような関係ではありたいと思っています。記者ではないので、基本的に聞いたことは口外しません。それを世間に伝えることは私の仕事ではないですから。

早見 他言無用だからこそ、本心を吐露するひとがでてくるのでしょうね。

政治家の秘書に自分を重ねて

三浦 自身への向き合い方という意味では、早見さんは今作では、カリスマ政治家・清家一郎と、彼を支える秘書・鈴木俊哉では、どちらに自分を重ねているんですか?

早見 完全に俊哉ですね。今でもそうですが、山本周五郎賞(『ザ・ロイヤルファミリー』新潮社)をもらっても、本屋大賞にノミネート(『店長がバカすぎて』ハルキ文庫)されても、自分は作家としてニセモノだという思いが拭えず、天才性を発揮する人物に対する畏怖の念をずっと持っています。一方で、ホンモノかニセモノかにこだわっている人って、あんまりいないんだな、とも感じています。

 

三浦 自分は決してジャッジされる側に回らないと確信しているひとは、そのことに思いが至らないのでしょう。「自分がニセモノかもしれない」と感じている人や、身の丈よりも自分を大きく見せて、成長しようとしている人たちは、常に、「ホンモノ」か「ニセモノ」かを判定し続けているのではないでしょうか。頭角を表したり、首相候補になったりするような政治家であっても、ニセモノだといわれることを常に恐れている人もいます。ジャッジされ続けている人からすると、「そもそもホンモノって何なんだよ!」という心の叫びもあるでしょう。いつのまにか、「ニセモノとみられないための虚勢」や「自分を見くびる人へのルサンチマン」が心の中心にたまってくると、怪物が誕生してしまう。まさに『笑うマトリョーシカ』です。

早見 嬉しいです。まさに人間のそういう部分を描きたいと思っていました。

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(取材、構成:第二文芸編集部、撮影:撮影:今井知佑/文藝春秋)

■この対談の動画は、こちらでもご覧いただけます。
【対談 早見和真】
https://www.youtube.com/channel/UC3d9_rbvUwswmWB6G4X1NeQ

笑うマトリョーシカ

早見 和真

文藝春秋

2021年11月5日 発売

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