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その言葉は、真実なのか!

早見 三浦さんの中で、周囲の人間を見るときの価値判断の基準は何でしたか?

三浦 本当のことを話しているかどうか、ですね。

早見 僕もまさにそこです。でも、本人も気が付かないうちに、耳ざわりの良い事ばかりを言う人ってたくさんいませんか? そういう人に会うと、孤独を感じて、この世界の誰とも意思の疎通ができないんじゃないかと感じてしまうときがあります。

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三浦 ええ。私は書くだけじゃなくて、しゃべるということも仕事にしていますから、相手から、本当の言葉が返ってこないと、まるで砂漠にいるかのような気持ちになります。

 

 ただ、仕事でもあるわけですから、諦めるわけにはいきません。政治討論番組や、選挙特番などに出演したときには、相手に真摯に向き合うことで、相手が「失望されたくない」と思って本心を開示してしまう、というのが、私の理想ですね。

早見 (笑)。でも、分かります。その瞬間はとても心地いいですよね。

  「見くびるな」という言葉にすべてを込めた

三浦 『笑うマトリョーシカ』の登場人物たちは、なかなか本音を見せず、一筋縄ではいかないですね。

早見 この小説は、若くして官房長官となった代議士・清家(せいけ)と、秘書として彼を支える同級生、鈴木。そして、清家をニセモノと断罪し、仮面をはがそうとする新聞記者らの関係性を通じて、「人間のむき出しの欲望」を描きたかった小説です。何がホンモノで、ニセモノかを、読者に問いかけたかった。

 

三浦 私もTwitterに書きましたが、「見くびるな」というセリフにゾワっとしました。

早見 まさにその言葉が大切でした。ある登場人物が、物語の後半で発する「見くびるな」という一言に向かって書いた小説です。でも屈託なく育ってこられた方は、このセリフにあまり反応してくれないんですよね。

三浦 それはそうだと思います。「敗者の気持ちが分からないと、共感能力は育たない」という研究があります。勉強や、駆けっこで負けたことがない人に、「見くびるな」という言葉を発する人の気持ちは分からないんです。ところが、政治家に関していえば、出世の階段を駆け上がり、順風満帆に見える人であっても、「見くびるな」という言葉が胸の奥に眠っていて、突然出てくるというシーンに何度か出くわしたことがあります。それが人間の複雑さなのでしょう。