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「この政治家にとって僕は、何百人もいるブレーンの一人だったのだろう」 小説家・早見和真は、なぜ“がらんどうの政治家”の世界を描いたのか

三浦瑠麗×早見和真 #2

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 国際, 政治, 社会, 読書

note

早見 メディアを通じて、私たちは、「この政治家は使えない」などと一方的に断罪したり、「この人なら日本を変えてくれる」と簡単に信じたりします。果たして見えているものが本当なのかウソなのか。「人間の醜さや欲望」が表層化する政界で、本当の人間の業を書いてみたいと思ったんです。

ある政治家と会って想起されたイメージ

三浦 がらんどうの清家一郎というイメージは、すぐにうかんできたのですか?

早見 僕の小説の読者だと言ってくださる政治家と、食事をする機会が何度かありました。その方とは、友達でもなく、仕事仲間でもないという関係性でした。あるとき、僕が当時よく話していた「持論」に興味を示してくれたんです。後日、その政治家が記者会見で、僕の持論を、ほぼそのまま語っているのを見たんです。嫌な気持にもならず、腑に落ちたんです。この政治家にとって僕は、何百人もいるブレーンの一人だったのだろう、と。その政治家の中には、空っぽの空間があって、スポンジのように他人の意見を吸収しているのだとしたら? という仮説を立てたことが、執筆のきっかけでしたね。

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三浦 面白い。「彼」が誰であるかはわかりませんが、同じように感じることはあります。ただね、日本という国は「翻訳文学」に優れた国じゃないですか。自分の頭で物事を考えるのではなくて、海外のリベラルな言論を中心に、なにごとも翻訳をして受け入れて、考えというものを醸成してきたと思うんです。オリジナリティ、という概念は、日本人には希薄なのではないでしょうか。頭のいい人たちがよく言うのは、「その見方は面白いね」ではなくて、たいてい「それはどこに書いてあったの?」なんです。

早見 オリジナリティがあるかどうかよりも、ソースを問う文化であると。

三浦 本や論説をたくさん読んで、吸収することが評価されてきた。一方で、「出典は俺だ!」という主張を認める教育をしてこなかった。相手の知識を咀嚼して、自分のものにしてしまう力は、人々を誤解させます。これに、清家一郎のようなカリスマ性が加われば、まさに話し言葉の持つ、魔法ですね。

早見 僕はそれを「是」と捉えているんですよ。三浦さんはいかがですか?

三浦 私も同じです。多かれ少なかれ、その能力がない事には、政治家としてやっていけないと思います。