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「この政治家にとって僕は、何百人もいるブレーンの一人だったのだろう」 小説家・早見和真は、なぜ“がらんどうの政治家”の世界を描いたのか

三浦瑠麗×早見和真 #2

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 国際, 政治, 社会, 読書

人間の本性について

三浦 ところで、早見さんはお酒を飲まれますか?

早見 とくにデビューしてからは、ほとんど飲んでいないですね。ただ、ロシアや中国では、お酒を共に飲んで本性をさらけ出さないと、信頼関係は生まれない、と言われていたりして、気にはしています。

三浦 確かにお酒を飲むと、緊張が和らいで、気詰まりな雰囲気もなくなって、「近しい」という錯覚を生み出すとは思います。でも、お酒って、ある種理性が取り除かれるだけです。その理性とは、まさに人間が生まれ落ちた後に培ってきたものです。それが無くなったら、本質が見えたなんていうのなら、生まれたあかんぼうの瞬間がもっとも本質的であるということになる。

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早見 人間の本性って、酔っぱらったときに見えるかどうかというような、簡単なモノじゃないと。

三浦 いま、ある人のことを思い出しているんですけれどもね…とても優れた能力を持つ人で、政治家です。たとえば、その人の目の前でおぼれている人がいたときに、助けるか、助けないか。これは、その瞬間にならないと分からないと思っています。心の中には優しさがあると感じることもあれば、「見くびるな」という言葉がふいに出てきそうな恐ろしい雰囲気もある。でも人間って、そういうものなんじゃないんですか。人の本性というのは、常に分からないものなんだと。

早見 とてもくだらない話なんですが、僕は、本性が問われるような場面を想像して、いろんなシミュレーションをしています。飛行機が墜落することになったときの振る舞いや、仮に不倫相手がいたとして、家に怒鳴り込まれたときには毅然とした態度を取ろうとか。見せたい自分の集大成のようなものを、いつも妄想していました。

三浦 幼いころからそういうシミュレーションをやっていらしたんですか?

早見 はい。

三浦 私も(笑)。記憶があるところからいくと、3歳くらいからだったかしら。危機におけるふるまいに限らず、空想によるシミュレーションですよね。こういう仕事をしていると、人に恨まれることもありますから、いつかどこかで、死ぬかもしれない、という覚悟は持っています。そのときの私の心配は、娘の存在です。守るべき存在という脆弱性を抱えている。それが解けるのは、人間が大きくなったからではなくて、「執着」が無くなった時だと思います。

早見 そういった思考も含めて、三浦さんは小説家っぽいんですよね。

三浦 そうなんでしょうか。

早見 国際政治学者としての三浦さんの著者『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)も興味深いものでした。簡易版の「あなたの価値観診断テスト」をやってみたんです。

 

三浦 いかがでしたか?

早見 不思議と枝野幸男さんとほぼ同じ場所でした(笑)。これは自分の投票指針を考える上で、とても参考になりますね。僕は、今回の衆議院議員選挙の投票率の低さが残念でした。街頭インタビューなどで「自分の一票でこの国は変わらない」と話す人もいますが、その考えこそが傲慢だと思うんです。この診断テストをして、ぜひ選挙にはいってほしいなぁと願っています。

(取材、構成:第二文芸編集部、撮影:撮影:今井知佑/文藝春秋)

■この対談の動画は、こちらでもご覧いただけます。
【対談 早見和真】
https://www.youtube.com/channel/UC3d9_rbvUwswmWB6G4X1NeQ

早見和真(はやみかずまさ)

 

 1977年、神奈川県生まれ。2008年、『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。2020年『店長がバカすぎて』で第17回本屋大賞ノミネート。同年『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞を受賞。他の著書に『かなしきデブ猫ちゃん』(絵本作家かのうかりん氏との共著)や、ノンフィクション『あの夏の正解』などがある。

三浦瑠麗(みうらるり)

 

 1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』『日本の分断』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)『孤独の意味も、女であることの味わいも』(新潮社)などがある。

笑うマトリョーシカ

早見 和真

文藝春秋

2021年11月5日 発売

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