テニスの元ダブルス世界1位でもある中国の彭帥(ポン・シュアイ)をめぐる事件は、世界を巻き込んで展開し、考えられないほど膨張してしまった。発端は彭帥の『♯MeToo』告発。かつて副首相も務めた中国共産党高官からの性的暴行や不倫関係を、中国版ツイッター“微博(ウェイボ)”で事細かに暴露した。
女子テニス協会(WTA)は「中国からの撤退」を警告
すぐに彭帥の投稿は削除され、中国でこの件は検閲対象となって一切の情報はブロックされた。海外メディアが彭帥の「消息不明」を報じる中、中国国営メディアは本人のメールや写真、さらには動画などを紹介して彭帥の無事を主張。国際社会がなおその信憑性を疑い、北京五輪ボイコット論が広がる中、今度はIOCのバッハ会長まで登場して彭帥とテレビ電話で会話をしたという。
日に日に状況は変わるが、女子ツアーを統括するWTAの姿勢は一貫している。「彭帥が無事であり、身体的危険にさらされていないという検証可能な証拠を示すこと」と、「彼女の性的暴行疑惑について、検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うこと」を強く要求。それが実現しないなら「中国からの撤退」という明確な警告まで発している。
“親中派”のノバク・ジョコビッチは…
男子ナンバーワンのノバク・ジョコビッチは、イタリア・トリノで出場していたATPファイナルズの記者会見で、「WTAの声明を支持する。こんなことが過去にあったかどうかは知らないが、頻繁に起こることでないことは確かだ。ただ、人生は何が起こるかわからないものだし、誰だって道に迷うことはある。テニス界は一致団結して彼女や家族を援護する必要がある。この問題が解決しないまま中国で大会が行われるとしたら、それは筋が通らない」とコメントした。
実はジョコビッチはかなりの“親中派”。秋のアジア・シリーズには東京でなく同じ週の北京に出場するのが長い間のルーティンで、2019年に「オリンピックの下見」をかねて来日するまで日本でプレーしたことはなかった。北京では2015年までの間に6回出場して負けなしで、翌週の上海マスターズでも4回の優勝を誇る。
中国のテニスファンにとってジョコビッチはまるで自国のヒーローのような人気者で、4度目の優勝を果たした2018年の上海では「僕は前世で中国人だったんじゃないかな」とジョークを言い、猛勉強していた中国語で挨拶をしたり、テレビカメラのレンズに漢字でメッセージを書いたりしたほどだ。