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点滴を打ちながら公務を…130日以上続く激務で疲労困憊

 この頃、自民党内からは総裁選を先送りしようという菅の思惑を牽制する動きが表面化していた。新潟県連会長の高鳥修一衆院議員は記者団に「我々としては総裁選を先にしていただきたい」と述べた。そして、「長老や派閥の領袖が談合して、総裁選の流れを決めるということは党のあり方としてマイナスだ」と、暗に菅を支援する二階幹事長らを批判し、「総裁選は開かれた形で正々堂々とやるべきだ」と強調した。衆院選が目前に迫る中、内閣支持率が低迷する菅政権のままでは、自民党が惨敗しかねないという危機感が、党内に蔓延し始めていた。

「やるなら、やればいいじゃん」

 菅は、こうした動きについて、投げやりに言い放った。

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「俺からしてみれば、こんなコロナの大変なときに、よくやるなと思うよ」

「誰が出てきますかね。下村さんは出ますかね?」

「出ないでしょ」

「高市さんを、安倍さんが支援するということは?」

「それはないでしょう」

「あとは岸田さん」

 その名前を聞くと、「ふっ」と鼻で笑った。

「緊急事態宣言中は、やはり解散は難しい?」

「俺は、コロナ最優先と言ってきたからね。でも、8月末になれば、ワクチン接種状況はアメリカ並みだから、まだ分からないよ」

 質問を畳みかける。

「解散をしなくても、総裁選を延期することはできないのでしょうか?」

「それは知らない。党のことだから、そこは党で決めてもらう」

 そして、深くため息をつくと、悲しげに苦笑を漏らした。

「支持率が少しでも上がったら、自民党の議員たちも文句を言わないんだろうけどね。みんな自分の選挙に響くと思っているからね」

 この2日前にNNNと読売新聞が発表した世論調査で、菅内閣の支持率は35%と政権発足以来、最低となった。閉会したばかりの東京五輪については、開催されてよかったと「思う」が64%、「思わない」が28%だった。日本選手の過去最高のメダルラッシュで世論は大いに盛り上がったが、それが政権の追い風にはつながらなかったのだ。

 この頃、外部には伏せられていたが、菅は官邸の執務室で、疲労回復のための点滴を打ちながら公務をこなしていた。3月末以来、130日以上休日も取らずにコロナ対策などの激務を続け、さらに睡眠不足も重なり、疲労困憊は誰の目にも明らかだった。秘書官たちは「せめてお盆休みは、都内のホテルで静養してください」と懇願し、宿泊の予約を取った。しかし、前日になると、菅は予約をキャンセルしてしまう。そして、秘書官に優しく言い聞かせるように諭した。

「夜になると、宿舎にいても救急車のサイレンが聞こえてくるんだ。そうすると、もしかしたら搬送先がなくて、たらい回しになっているんじゃないかと不安で、眠れなくなってしまう。国民がそんな状況のときに、私だけホテルで休むなんてできないんだよ」

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