『カムカムエヴリバディ』のここまでの放送を見る限り、「3人交代制」の効果はまずドラマのスピード感に表れている。通常の朝ドラがフルマラソンのように序盤はゆっくりとペースを作るのに対して、上白石萌音の演じる昭和編は中距離走者がトラックを駆け抜けるように序盤から脚本がトップスピードに入る。
もちろん、デメリットや負担がないわけではない。昭和・平成・令和の三つの時代を描くと口で言うのは簡単だが、ドラマのセットから衣装、時代考証に至るまですべてが3倍必要になってしまうのは誰にでもわかる。100年という時間を描くにはヒロインだけではなく、共演者に至るまでほぼ総入れ替えなのだから、キャスティングの苦労や費用も単純な3倍では利かないかもしれない。
俳優個人への負担が軽減される分、制作側にはおそらく通常の朝ドラ以上の負担があり、おいそれと「これはいいアイデアだ、次もやりましょう」と言えるようなことではないだろう。だがそうした規格外のコストを投じてもこの体制を取る価値を、NHKが『カムカムエヴリバディ』という作品に認めたということだ。
公式サイトやガイドから感じさせられる「伏せられたカード」
恒例のNHKドラマ・ガイド『カムカムエヴリバディPart1』では、チーフ演出の安達もじり氏が「(今作はコロナ禍によって)大阪拠点放送局制作の前作『おちょやん』と並行して撮り始める前代未聞の状況にもなり、スタッフが途中で大幅に入れ替わったりもしています」と状況の困難さを語っている。制作統括の堀之内礼二郎氏は「『ラジオ英語講座とともに歩んだ家族の100年の物語』という構想を脚本家の藤本有紀さんから聞いた時、その壮大な構想に心が震えた」と語っている。
だが、この定番の朝ドラムックであるNHKドラマ・ガイド『カムカムエヴリバディPart1』には、不思議なことに脚本家である藤本有紀氏のインタビューが掲載されていない。制作統括やチーフ演出のインタビューが掲載されているにもかかわらずである。
NHKの公式サイトでもやはり同様だ。今も多くのファンに愛される『ちりとてちん』で朝ドラの歴史に大きな一歩を刻んだ藤本有紀氏には、制作発表の前から大きな注目が集まっている。もちろん、執筆に専念しているという可能性もあるだろう。だが、過去の朝ドラに比べ、NHK全体がこの作品の展開について事前の情報を最小限に絞っているように見えるのだ。
コメントだけではない。前半後半と冊2出版されるNHKの朝ドラガイドシリーズには、それぞれ前半後半の「あらすじ」が掲載される。たとえば『おかえりモネ』のドラマガイドPart1には第11週まで、約3ヶ月分が掲載されている。だが『カムカムエヴリバディPart1』に掲載されているストーリーはわずか3週分である。
「その後のあらすじ」としてさらりと4週目以降にもふれてはいるものの、公式サイトもガイドブックも明らかになんらかの「伏せられたカード」があることを感じさせるのだ。