だが3人交代制の『カムカムエヴリバディ』のスタイルなら、その二つの大仕事をギリギリなんとか両立させることができる。もともとNHKは近年、以前は土曜まで週6日体制で放送していた朝ドラを月~金の「週休2日体制」に短縮するなどの改革を進めてきてはいるのだが、今作で昭和前期を演じる上白石萌音のキャスティングとスケジュールは、3人交代制が可能にした両立とも言えるだろう。
「あの深津絵里が!」視聴者の衝撃
それはもしかしたら、2代目ヒロインを演じる深津絵里にも言えるかもしれない。放送前から深津絵里の『カムカムエヴリバディ』ヒロイン登板の発表は大きな話題を集めた。だがそれはNHK側の判断に対してより「あの深津絵里がよく朝ドラのオファーを受けてくれたものだ」という驚きの方が強かったように思う。
『踊る大捜査線』『彼女たちの時代』『きらきらひかる』など、上げればキリがない名作群で鮮明に記憶される深津絵里は、朝ドラ視聴メイン層と共に生きてきた団塊ジュニア世代女性の象徴的存在ではある。
だがその一方で、2010年の李相日監督作品『悪人』でモントリオール世界映画祭最優秀主演女優賞を受賞したあと、その評価の高まりと反比例するように出演作は減少していく。2016年以降の5年間で、出演した映画はわずか2本。テレビドラマに至っては、2011年の『ステキな隠し撮り』から今に至るまで、出演したのは2020年のテレビ東京単発ドラマ『最後のオンナ』1本だけという状態だ。
その出演の減少の理由はあまり語られることがなく、不明のままだ。しかし世界的な評価と、同世代女性からの熱い支持を集めたまま半ば「伝説の女優」になりつつあった深津絵里が、突然朝の連続テレビ小説という「毎日出ずっぱり」の代名詞で復帰するというのだから驚くなという方が無理な話だ。
それはもちろん深津絵里が『カムカムエヴリバディ』の脚本に出る価値を認めた、ということが何よりも先にあるのだろう。だが同時に「1年間、130話全部出演ではない、凝縮された物語の3分の1で『あなたの時代』を演じてほしい」とNHKが依頼できた、負担を通常より軽減できたことも深津絵里ヒロインを実現する上で大きかったのではないかと思う。
そして物語終盤に「3代目」のヒロインを演じる川栄李奈からも目が離せない。最近公開された短編アニメ映画『サマーゴースト』で彼女は声優として幽霊の少女を演じているのだが、これが腹式の低い発声で物語に凄みと重さを加える素晴らしい演技だった。
アイドル出身ながらもともと俳優としての評価が高く、リアルな現代女性の演技ができる若手なのだが、上白石萌音のノスタルジックな魅力に対して、川栄李奈はスピード感のあるアグレッシブな役者だ。ある意味では必ずしも朝ドラ的ではない、攻めたキャスティングができるのもトリプルヒロインのメリットかもしれない。