1956年(99分)/日活/Amazon Prime配信中

 先日、無名塾公演『左の腕』を能登演劇堂で鑑賞した。

 主演はもちろん、劇団を主宰する仲代達矢。役者人生七十周年記念作品である。幾多の歴史的名作にその名を刻んできた「生ける伝説」と言うべき仲代だが、その実績や名声に胡坐をかくことなく新しい芝居、困難な役柄に挑戦し続ける精神には、ひたすら畏敬の念を抱くより他にない。

 今回取り上げる『火の鳥』は、そんな仲代が初めてその名を世間に知らしめるきっかけになった作品である。これは手塚治虫の漫画ではなく、一九五六年の日活映画だ。

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 主人公の女優・生島エミ(月丘夢路)は新劇の人気女優だったが、映画会社からの熱心なアプローチもあって映画に主演することになる。が、なかなかふさわしい相手役の男優がいない。映画会社の会議室で審査が空転する中、バルコニーに出たエミは下を歩く一人の青年に見とれる。それは長沼敬一という若手のスター候補生だった。そして、この敬一を演じるのが仲代なのだ。

 エミは知り合った男たちがことごとく惚れ込んでしまう美貌と知性の持ち主。そんなエミが一目見ただけで惚れ込んでしまうのだから、並大抵の二枚目では説得力がない。

 だがこの時の仲代は、タンクトップから隆々とした筋肉を覗かせ野球のグローブを手にはめているのだが、その放たれるフェロモンが尋常ではなく、これなら誰だって一目惚れするわな――と思わせるだけの色気が一瞬のうちに画面越しにも伝わってきた。

 この敬一の魅力にエミは仕事に大きな穴をあけるほどメロメロになっていく。この時の仲代の眼差しはまさに魔性。自らを強く律して生きてきたエミをもってしても、容易に籠絡されてしまうのも当然だという魅力にあふれている。

 ただ、それだけなら仲代は「二枚目俳優」のカテゴリーで終わっていたかもしれない。だが、その真骨頂がラストに待ち受けている。自身の生きるべき道を見出したエミは敬一と対峙する。敬一はこれまで通り、余裕綽々の表情なのだが、次の瞬間に一変する。エミが猛烈なビンタを浴びせてくるのだ。この時に仲代の見せる、惨めで情けない横顔――。この落差のギャップを表現できる演技力こそ、仲代達矢を「二枚目」ではなく「名優」たらしめているのだ。若手時代から既にそれが備わっていることに驚かされる。

 今度の舞台でも、強烈な殺気を見せたかと思えばそのすぐ後に軽妙な口跡を披露、その緊張と緩和で客席に笑いを巻き起こしていた。

 是非この機会に、約七十年の時を隔てても貫かれ続けている、仲代達矢の魅力を堪能してみてほしい。

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