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連載春日太一の木曜邦画劇場

長谷川一夫、雷蔵、勝新、鶴田浩二、女性陣まで全く隙のない忠臣蔵!――春日太一の木曜邦画劇場

『忠臣蔵』

2021/12/07
1958年(164分)/KADOKAWA/3080円(税込)

 今年は過去最高に本を出させていただける年となった。その締めくくりとして、文庫化や責任編集のムックも含めれば六冊目となる新刊『忠臣蔵入門 映像で読み解く物語の魅力』(角川新書)が来たる十二月十日に発売になる。

 これはタイトルの通り、「忠臣蔵」を「物語」として楽しむ上での基礎知識を、映像作品を軸に分かりやすく解説したつもりの「入門書」だ。それに合わせて本連載では、「忠臣蔵」映画の魅力についてしばらく述べていきたい。

「忠臣蔵」は結末が分かっている物語であるにもかかわらず長年にわたって多くの方に愛されてきた。大きな理由の一つとして、「オールスター作品」という点が挙げられる。大石内蔵助、浅野内匠頭、吉良上野介に加え、彼らに絡む人物たちにスターや大物俳優が配されることで、その顔ぶれに加えて個々の芝居場での顔合わせが「年に一度のお祭」的な華やかさをもたらすのだ。そのため、各映画会社やテレビ局は競い合うように豪華キャストを集めて「忠臣蔵」を作り、観る者を楽しませてきた。

 今回取り上げる一九五八年の『忠臣蔵』も、そんな一本。大映が作った作品なのだが、「我が社にはこれだけ多くのスターがいるぞ!」と誇示するような配役になっている。

 主人公の大石に看板スターの長谷川一夫、悲劇の貴公子・浅野内匠頭に若手ナンバーワンの市川雷蔵、豪傑の赤垣源蔵に頭角を現しつつあった勝新太郎、二枚目の岡野金右衛門に大映参戦中の鶴田浩二。それぞれに適役に扮した時代劇スターたちが「四大主人公」として引っ張る。

 これに菅原謙二、船越英二、川口浩といった現代劇で活躍する面々や志村喬、滝沢修、小沢栄太郎といった重鎮も加わる。女性陣も京マチ子、淡島千景、山本富士子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子――。隅々まで全く隙がない。

 しかも、ただ豪華なだけではない。圧倒的な重厚感でカリスマ性を提示する長谷川。雷蔵の凜とした内匠頭と、滝沢修の演じる上品さの奥から憎々しさが滲み出る吉良との対立。鶴田&若尾による悲恋のドラマ。大石暗殺を命じられながらも徐々に大石に惹かれていく、京マチ子の演じるスパイの葛藤。その京マチ子を裏で操る小沢の怜悧さ。

 個々のスターたちの見せ場もたっぷりとある上に、それぞれが充実した盛り上がりを見せてくれるのである。

 かつて映画やテレビにおいて「忠臣蔵」は年末年始の風物詩といえる存在であったが、近年では新作が作られることがほぼなくなっている。この年末は過去の豪華作品を拙著と共に振り返り、お祭気分に浸っていただけたら幸いだ。

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