すごいおいしい、すごい大きい、すごい便利。そうした食材を生み出す、すごいバカ力とド根性。『日本のすごい食材』には全国を取材して、驚きの背景から生まれた食材が21種類登場する。その中から、著者おススメの「すごい」を3つ紹介。
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(1)厳冬の北海道でマンゴーを作る
「バカ、アホ、本気か? 止めとけ」
中川裕之社長(〈株〉ノラワークスジャパン=帯広市)は、罵声を何百回となく浴びせられた。冬季はマイナス25℃以下になる北海道の十勝地方で、それも12月の真冬に完熟するマンゴーを栽培すると公言したからだ。
熱帯産のマンゴーには、生育条件が大きく2つある。
〈1〉実がなるまでは土壌温度は25℃以上。
〈2〉秋口に、気温が15℃以下にならないと、花が分化せず、結実しない。
それ以前に、十勝地方では厳しい冬の寒さでマンゴーは枯れてしまう。それでも、中川氏は果樹の実りにくい北海道で、できるだけ商品価値の高い果樹を栽培してあらたな産業を創り出そうと考えた。しかも、地球温暖化を考えて、栽培するハウスを暖房するために化石燃料を使いたくなかった。
「ハウスのある音更町(おとふけちょう)には、十勝川温泉があります。冬は、近くに雪捨て場があります。そこで、温泉水でハウス内の土壌を温め、夏は、溜めた雪で土壌を冷やそうと考えました」(中川氏)
温泉の源泉と雪氷(せっぴょう=雪室)からは、ハウス内の土壌にパイプが伸びて、循環させて熱交換を行う。冬の日照時間に関しては、音更町に隣接する帯広市では、マンゴー栽培が盛んな宮崎県日南市より長い。こうして、エコなマンゴー栽培が始まった。
2010年にマンゴーの苗を植えて、翌年、初めて収穫。それを、宮崎県産とメキシコ産のマンゴーと3種類を並べ、宮崎県の生産者も参加してブラインドで試食テストを行った。そのとき、もっとも評価が高かったのは、音更町のマンゴー「白銀の太陽」だった。
「南国産のマンゴーは、日差しが強いので、表皮にワックス成分がにじみ出ます。『白銀の太陽』は、皮のワックス成分が少なく、やわらかいので、皮ごと食べられます。そのうえ、北海道は低温で湿度が低いので、防虫剤も防カビ剤も必要ありません」(同前)
北海道の厳しい自然を逆手にとった発想と、独自開発した栽培法で、新ブランド『白銀の太陽』は誕生した。