(3)無塩の漬物・すんき漬けはすぐれた健康食品
伝統的な食材が、新しい科学の研究によって、見直される場合もある。
たとえば、長野県木曽地方の名物「すんき漬け」(地域ブランド名は「木曽すんき」)は、赤カブの茎葉の漬け物で、江戸期以前から続いている。ふつうの漬け物は、食べるとご飯やお茶がほしくなって、あとでのどが渇く。それに対してすんき漬けは、食べても尖ったところがなく口の中をスーッと軽い酸味が通り抜ける。塩も砂糖も使わずに発酵させているからだ。「すんき」は「酸茎」と書く。酸っぱいのは、乳酸菌がたっぷりと含まれていることによる。
「すんき漬け」の成分を分析した結果、乳酸菌のラクトバチルス属の4種類の菌が入っているという特徴がわかった。ラクトバチルス属の乳酸菌は、古来、乳製品や漬け物に使われてきた“善玉菌”である。
これらの菌を含めた乳酸菌が繁殖すると、pH3.7まで酸が強くなり、腐敗菌や食中毒菌は増殖できない。冬は厳寒の木曽地方では、「すんき漬け」は貴重な栄養源だったのである。
さらに、木曽町の地域資源研究所の保井久子所長(元信州大学教授)たちの研究により、「すんき漬け」の驚くべき健康成分もわかった。
すんき乳酸菌の中に含まれている「ペディオコッカス・ペントサスSn26」という4連球菌は、マウス実験で、アレルギー性下痢症を抑えると同時に、インフルエンザの感染を防ぐ効果も優れていた。つまり、この菌は、免疫が過剰なアレルギー症状も、免疫が弱って感染しやすくなるインフルエンザも、どちらにも働く免疫調節機能があったのである。
同研究所は、この「ペディオコッカス・ペントサスSn26」を使って、2016年、「乳酸菌発酵豆乳【Sn26】」を発売した。
以上紹介したのは、日本が誇る食材のごく一部だが、日本には、味はもちろん、安全性も、健康効果も、本当にすごい食材がまだまだある。