岸田総理「提出期限ギリギリの宿題」
――参院選では、何が争点になるでしょうか。
御厨 岸田総理の言う「新しい資本主義」や「成長と分配の好循環」は、茫漠としていて意味がわかりません。この国をどうするかといった大きな話は、岸田さんには似合わないんです。もっと具体的に絞り込んで、中期的に「これをやるんだ」と中身を示さなければダメです。それには、政策立案を得意とする宏池会の政治家や官僚をいかにうまく使うかがキーになるでしょう。
就任し、選挙も終わり、国民もそろそろ岸田総理を落ち着いてみるようになっています。だから、年が明けるまでにそうした中期的目標を示せなければ、「あ、この人、何もしない人なんだな」と思われてしまう。
わかりやすい例は第2次安倍政権。早々に物価目標などを掲げた「アベノミクス」を打ち出し、何年以内にこういうことを進めるのだと明示しました。年明けとともに新しい課題に向けて動き出せるようにするには、もう年内が「提出期限ギリギリ」なのです。
公明党に乗せられて現金のばら撒きを続けても、国民の不満は解消できません。公平性に重きを置いた経済政策をきちんと出していければ、参議院選挙は乗り切れると思います。
迫る参院選…野党が絶対言ってはいけない言葉
――野党に勝機はありますか。
御厨 いまの彼らの状況にすれば、まずは政府の提案した法案や政策に対して、どれだけ有効な修正をかけていけるかが勝負です。ろくに勉強もせず、自民党が出してきた法案や政策は全部バツだと罵倒する態度では、国民の共感は得られません。官僚にも頭を下げて政策について勉強して、法案に修正を加える力を身につけるところから始めることです。
その中で、立民なら立民のカラーが出てくると思います。もともとは社会保障などに強く、国民生活の近いところに影響を及ぼすだけの集団です。このまま雲散霧消しないためには、まずはそこからです。
その意味で、しばらくは絶対に大きく掲げてはいけないのは「政権交代」という言葉。もちろん掲げたい気持ちは分かりますが、現状は有権者も分かっています。今回、自民党が一部選挙区で掲げた「政権交代より世代交代」ではありませんが、まずは政策力の地力をつけ、「脱・枝野商店」となる自分たちの方向性を見出していくこと。
世の中に大きな問題が生じなければ、政権が中程度の政策を出し、それに騒いでいるうちに与党がそのまま勝って、岸田政権が安定的に維持される可能性があります。野党にとっては、まずは確実に政策を修正し、争点に結びつけていけるかどうかがポイントでしょう。
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構成=石井謙一郎