11月30日に就任した立憲民主党新代表の泉健太氏。衆議院選挙での敗北を受け、共産党との協力関係の是非や党の立て直しなど山積する課題に直面している。2022年の夏に訪れる参院選に向け、再建を目指す野党と、対する与党。東京大学名誉教授の政治学者・御厨貴氏は、それぞれの「課題」を指摘した――。

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「安倍さんがなぜ怒るのか、鈍感な岸田さんにはわからない」

――政界は、来年夏の参院選に向けて動き始めています。各党の現状を、どうご覧になっていますか。

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御厨 まず自民党を見ていて感じるのは、派閥の在り方が変わったことです。

 ふりかえれば平成は派閥が衰退した時代で、全盛期はその前の昭和でした。30年以上前の話だから、みんな忘れているか、そもそも知らない若い人も多い時代です。ただし当時がいまと違うのは、派閥の長がみんな総理大臣の候補だったことです。

――安倍元総理が細田派を引き継いで、安倍派を作りました。

「安倍派」を立ち上げた背景には、岸田首相の“鈍感さ”があるという ©文藝春秋

御厨 その理由は、岸田総理が安倍さんの出身である清和会系の細田派から閣僚を選ぶ際に、安倍さんに近い連中を外したことにあります。あれは岸田総理があまりに鈍感だからこそできた人事で、せいぜい「細田派から人を選んだからいいじゃないか」くらいにしか思っていません。「細田派の中でも安倍さんに近い人を入れないと……」という発想がない。なぜ安倍さんが怒っているのか、岸田さんにはわからないのだと思います。

 そこで安倍さんは、自ら派閥の長になって「安倍派だぞ。90人も抱えてるんだぞ」ともっとわかりやすく脅かさなければダメだと考えたんです。総理を退いた人が最大派閥を率いるのは、自分の派閥を手放そうとしなかった田中角栄が唯一。派閥は常に次の総理候補を立てるので、退任した総理経験者は不要なんです。

2012年、自民党総裁選時。清和会を飛び出して総裁選に出馬した安倍氏は、その後、長期政権を築くことになった ©文藝春秋

 しかし第2次政権の安倍さんは、安倍派を牛耳ってから総理になったわけではありません。派閥のボスだった町村信孝さんが出馬したので自分は脱藩したあげく、町村さんを蹴落として勝ったんです。つまり清和会にとっては裏切り者なのに、10年たったら当然のように戻ってくる。しかも、安倍さんの3度目の登板を望む空気はありません。わがもの顔で引っかき回すトップに、派閥の中にいる人は心中複雑です。