コロナ禍での東京オリンピックの開催に揺れ、首相が代わり、衆議院選挙では与野党ともに幹事長が辞任する結果となった2021年の日本。いったい、この1年で日本政治に起きたことにはどんな意味があったのか。東京大学名誉教授の政治学者・御厨貴氏に聞いた。

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「政治家・岸田文雄」の本質

――今年の政界の大きな出来事は、首相の交代と、4年ぶりの解散総選挙でした。まず、ここまでの岸田政権をどう評価されていますか。

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御厨 多くの人は、岸田政権に対して何か強い印象を持つことが少なかったのではないでしょうか。それもそのはずで、岸田総理はこの10年、もっといえばこの30年出てこなかったタイプの総理大臣。国民の方が、こういう総理大臣が久しぶりすぎてはかりかねているのです。

第100代内閣総理大臣としてスタートした岸田内閣 ©JMPA

 岸田総理は「聞く力」が自身の長所だとアピールこそしていますが、記者会見を何度開いても、本当にやりたいことが見えてこない。「新しい資本主義」や「成長と分配の好循環」の意味を訊かれて答えても、何を言っているかわかりません。

 自民党で長年続いてきた名門派閥・宏池会系のトップですから、積み重ねてきた総論哲学はある。しかし、具体的な各論がないんです。

――「何をしたい政治家なのか」がわかりにくいわけですか。

御厨 「令和版所得倍増計画」とも言ったでしょう? 60年以上前に池田勇人首相が唱えた言葉を持ち出されたって、いまどきわかる人はいません。次第に使わなくなりましたが、たぶん若い人から「総理、それ、通じないからやめましょう」とアドバイスされて、「みんながそう言うならやめるか。いい言葉だけどなあ」とかなんとか言いながら、引っ込めたに違いありません。

御厨貴氏 ©文藝春秋

 これは彼を象徴する一面ともいえます。仮に、安倍さんであれば自分が使いたいという言葉にはこだわり、自らの意思をはっきり表明したでしょう。岸田総理にはそれがない。どこかのんきで無頓着、ノンシャランとした政治家なのです。これは安倍・菅と続いてきたこの約10年の総理大臣とは明らかに違う特徴です。

 ただ、それが凶と出るか吉と出るかは別です。本人に明確な意思がないので、コロナ対策などは案外うまくいくかもしれません。第6波にどう備えたらいいか大体わかってきて、その上に乗っかればいいだけの話でもありますから。