「思い入れの強い」安倍・菅とは対照的なドライさの背景
――「聞く力」より「鈍感力」が持ち味かもしれませんね。
御厨 甘利幹事長が、衆院選の小選挙区で落選した責任を取って辞任を申し出たら、あっさり切って茂木さんを後任に据えました。あれで、岸田総理は人事に固執しないことが明確になりました。
「この人を絶対この地位につける。そこで頑張ってほしい」という思い入れが強かった安倍さんや菅さんとは違いますから、今後任命された人も、「総理のために」と頑張っている途中で、「あなたはもうこれで結構」と切られたりするかもしれません。
えてして就任後に老け込む人も多い地位にもかかわらず、総理になってから元気いっぱいで、ストレスが溜まっているようにも見えません。だから、意外に“頑張る”と思います。政権にしがみつくという意味ではなく、「普通に仕事していますから、皆さん何も言わないでください」という姿勢を貫いていくでしょう。
――そのドライさは個人的な資質なのか。それとも、対安倍や対菅という意識が強いせいでしょうか。
御厨 彼には安倍さんや菅さんへの対抗意識はありません。安倍さんと菅さんは感情露出が激しくて、嫌な質問には平気で怒鳴ったでしょう。総理大臣はそういう人ばかりじゃなくて、岸田さんのようにノンシャランとした人もいる。平成以後の政治家という尺度で見れば新しいタイプに見えるかもしれませんが、実は“先祖返り”で、昭和の派閥全盛期にいた雰囲気の総理大臣なのです。
もう10年も忘れていた、もっといえば平成の時代にもいなかったタイプ。リーダーシップは発揮しないけれども、なんとなく仕事はやるという総理です。
「新しい資本主義実現会議」に代表されるような有識者の会議をたくさん作りましたね。あれはメンバーの有識者が“特別な人”である必要のない、すべて官僚のお膳立て。結局やっているのは現場の官僚たちです。つまり、懐かしさの漂う「昔風」の政治に戻ったんです。
個人に重きを置かず、組織や官僚を使おうとするのも、宏池会らしい政治です。政策派閥と言われるくらい政策に強い政治家がたくさんいる派閥ですから、トップは彼らに任せて乗っかっていればいいんです。