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「120人も統治するなんて俺にはとてもできない」と言ってしまう“首相・岸田文雄”をなぜ日本政治は生みだしたのか

政治学者・御厨貴インタビュー #1

2021/12/04
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――野党はなぜ負けたんでしょうか。

御厨 非常にはっきりした敗因が、2点あります。1点めを象徴するのは、辻元清美さんが落選したり、小沢一郎さんが連続17選を重ねてきた小選挙区で初めて敗れたことです。

連続17選を重ねてきた小選挙区で始めた敗れた小沢一郎氏 ©文藝春秋

 小沢さんに対抗した自民党の候補者は38歳で、キャッチフレーズが「政権交代より世代交代」だった。この意識が、ほかの各選挙区の有権者にも響いたんです。

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 立民は旧民主党が政権を失って以来、政権交代を唱えてきました。もっといえば、その旧民主党が政権を取ったときから言えば10年以上、同じフレーズを使っている。しかし国民は「この人たちに付いて行っても、もう政権交代なんかないよね」と悟っているのです。

真実味のなさから目を逸らした立民

――もう1点の理由は何ですか。

御厨 立民が共産党と手を結んだことです。55年体制では、自民党が悪さをしたら、多くの人が社会党に投票しました。政権交代など起こりえないと知った上で、与野党を伯仲させることが自民党への懲らしめになったからです。

 今回も、そんな「お灸効果」を狙う選挙だったはずなんです。有権者には「モリカケ桜、河井夫妻の買収事件など、何ひとつ解明されない。いくらなんでも自民党はやりすぎだ」という憤りがありました。だから、そういう有権者の意識をすくい取ろうとすればよかった。

2016年の「桜を見る会」など、自民党への不満を「とりこぼした」野党 ©文藝春秋

 ところが立民は、政権を取ったら共産党と「限定的な閣外協力」をするとまで踏み込んだ。世論調査を見ても、いまの野党に政権交代するほどの力がないことは有権者もわかっていますから、その拙速な動きにしらけて離れてしまった。

 まして、共産党は日ごろの言動以前の、「有権者が持つ拒否反応」も根強い。「どういう選挙で選ばれているのか分からないまま、もう何年も同じ人がずっとトップにいる」「いまだに党の綱領には革命を謳っている」「日米安保や自衛隊にさえ反対してきた政党が与党で大丈夫なのか」といった忌避感が拭えていないなかで踏み込むには、あまりにも大きな一歩でした。

 政権交代を長年掲げ続けたことで真実味がなくなり、そのことを見て見ぬ振りをするかのような性急な対応をとった立民は、負けるべくして負けたんですよ。