120人の集団に「よく統治できるな、俺にはとてもできない」と言ってしまう岸田総理
――安倍さんや菅さんとは、改めてつくづく違うタイプなんですね。
御厨 わかりやすく変わったことは、官邸一極集中でなくなったことです。安倍・菅政権で報復人事を恐れていた官僚たちがだいぶ弛緩して、安心しています。官僚は変わり身が早いから、永田町と霞が関は明るくなると思います。その意味で岸田総理は、官僚連中にいい水を流しています。
かといって岸田さんが派閥主義者かというと、40数人で第4派閥の宏池会を大きくしようという考えはない。以前に話したとき「このくらいの人数がちょうどいい」と言っていました。さらに「昔の田中派なんて120人もいたんだってね。よくそんな人数を統治できるな。俺にはとてもできないよ」とも言うわけです。
上を目指す政治家として、その考えはまずいんじゃないかという発想は、岸田さんにはありません。しかし40数名でやっていくんだという覚悟は、逆に武器になります。意外に芯の強い人が総理になったと言えるかもしれません。
野党が押し流された「政権交代より世代交代」
――2021年はそんな岸田首相になってすぐに衆院選も行われました。あの選挙について、どう総括されますか。
御厨 どの党も、コロナで苦しんできた国民にいい顔を見せようとして、ばら撒きばかり提言しました。「時限的に消費税を下げます」「商品購入に使えるポイントを配ります」と短期的・即物的な話題ばかりが目立ち、この先人口が減っていく日本をどう運営していくかという視点は後景化してしまった。
だから個々の選挙区は燃えたと思いますが、全体として盛り上がりませんでした。菅総理の突然の辞任で始まった自民党総裁選のほうが、ずっと面白かったとさえいえます。
これにはメディアの責任もあって、政権選択型選挙だと印象づけようとしたでしょう。野党にそんな力はないのに無理やり、自公を取るか、立民+共産を取るかという構図にしてしまった。それにまた、立民の枝野代表が乗っかってしまいました。その意味では、作られた選挙を見ているようで、あまり気分がよくなかったというのも本音です。