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 一雄さんは日々のストレスの蓄積からか、次第に食事がほとんど取れなくなっていった。体調は悪化し、一時は体重が30キロ台にまで低下したという。さらに下血や吐血をするようになり医療機関を受診したところ、重い胃潰瘍と診断された。まもなく手術を受けたが、治療を終えてもその後数年は体調がもとには戻らず、仕事は辞めざるを得なかったという。今思い返しても当時はかなりしんどかった、と一雄さんは語る。

 その後、知人からの紹介で、土木会社で働いたこともあったというが、長くは続かなかった。それ以降、10年以上にわたって職には就かず、外部の人との接触も避けるようになった。

「働きたい気持ちもあったけど、働けばどうしても時間に拘束されて無理してしまう。長く働くことができなかった」

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父と兄の死を目の当たりにして、「パニックになった」

 その後、高齢の父や病気がちだった兄を世話しながら、最低限の人との交流はあったというが、周囲の人たちから聞いた話では、そうした機会も多くはなかったと思われる。こうした状況が長く続くなかで、突然、父と兄の死を目の当たりにして、「パニックになった」という一雄さんの話が少し理解できるようになった。

「二人が亡くなっているかもしれないと思ったとき、どうして救急車を呼ぶなり周囲へ助けを求めなかったのでしょうか」

「今考えると……適切な手続きを踏む必要があったのかもしれない」

「自宅を離れてから警察官に声をかけられるまで、どのように過ごしていたのですか」

「見てのとおり(トラックのなかでは)横になって寝られるわけでもない。どれくらいの時間を車内で過ごしたのかもわからない。長い距離を移動したわけでもないと思う」

「まともな食事を取った記憶もないし、自動販売機で缶ジュースを買ったくらいでほとんど記憶が残っていない」

 自宅前に停められた軽トラックは荷台が占める面積が大きく、座席をうしろに倒すことはできない。運転席と助手席の間にはサイドブレーキがあるので、横向きに寝ることもできそうにない。いったいこの空間で、どのように数日間を過ごしていたというのか。一雄さんも、どうやって寝ていたのか記憶がないという。その様子を窺うと、一度にすべての話を聞くのは酷なことのように感じられた。

「いつまでも下を向いてはいられない」

「前を向いて生きていきたい」

 そんな言葉を繰り返す一方で、どこか表情が晴れず、気がかりだった。一雄さんは再び畑のほうに戻っていった。

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