「自身で働かず、父親の年金に頼る生活をしていた。父親の死亡によって将来への不安が募り、適切な対応を取らず遺体を放置した」

 同居する86歳の父親が亡くなり、半年あまりにわたって遺体を放置したとして逮捕された小谷守さん(54歳・仮名)の法廷でのやり取りの一部である。現在社会問題化している“中高年引きこもり”の一人でもある小谷さん。彼は当時の心境をどのように振り返るのだろう。

 ここでは、『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』(宝島社新書)の一部を抜粋。執行猶予付きの判決が出ていた小谷さんのもとへ取材班が訪れた際のもようを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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半年間父親の遺体と暮らした男性

 訪れたのは市街地からほど近い住宅街。少しずつ日が傾き始めた午後3時過ぎだった。沿道には新しい家が建設中で、工事車両が慌ただしく行き交っていた。そのなかでも、両側に古い住宅が立ち並ぶ道を脇に入り、その突き当たりに目的の小谷さんの家があった。築40年以上だろうか、見た目にもかなりの年季が入っている。当時の警察の発表資料によれば、地域住民が長らく父親の姿が見えないことを不審に感じ、自治体に通報したことで発覚したとのことだった。一時はニュースになったことからも、ある程度、住民が小谷さんのことについては知っているだろうと近所の人に話を聞いてみた。

「たまに自転車で出かけていく様子を見かけるくらい。働いてはいないんじゃないかな」

 近所の人によると、小谷さんは事件のあと自宅に戻っているようだが、民生委員ですら接触できず困っているという声も聞こえてきた。今も自宅で暮らしていることはわかったが、感触として、本人から話を聞くのは難しいだろうと半ば諦めていた。あたりが薄暗くなり、ともかく接触を試みようと自宅へと向かった。

 ドアの横にあるインターフォンを鳴らしてみる。反応はない。しばらく様子を窺って、もう一度鳴らしてみる。すると、なかからわずかに人の気配が感じられた。ディレクターと顔を見合わせていると、だんだんと足音が近づいてくるのがわかった。

「小谷さんでしょうか。NHKの……」

 最後まで言い終わらないうちに、小柄な中年の男性があたりを見渡してから、私たちを室内へと誘った。スムーズに招き入れてくれたことを、少し意外に感じながら、家のなかへ足を踏み入れた。

「ああ、こっちにどうぞ、入ってください」

「そこを踏むと危ないから気をつけて」

 玄関を上がってすぐのところの床が陥没しかかっていた。私たちを玄関横にある居間へと案内してくれた。想定外の出来事にあっけに取られながらも、私たちは家に上がらせてもらうことになった。これが小谷さんとの出会いだった。