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「死んでいるのはわかっていた」「働くことができなかった」…80代父と50代兄の遺体を放置し続けた男性が明かした事件当時の“胸の内”

『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』より #1

 長年にわたるひきこもりの果てに、命を落とす――。いわゆる「ひきこもり死」が全国に広がっている。

 推計61万人もの“中高年ひきこもり”がいる日本社会。高齢の親が亡くなった後、生きる術を失った「子」はどのように生活を維持していけばいいのだろうか。

 ここでは、NHKスペシャルの取材班が書き下ろした『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』(宝島社新書)の一部を抜粋。80代の父、そして50代の兄の遺体を放置した男性の胸の内に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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父親と兄の死に直面した男性

「発表によると、佐藤一雄(仮名)容疑者は、当時住んでいた〇〇県の自宅で、80代の父親と50代の兄とみられる男性2人の遺体を放置した疑い。『死んでいるのは分かっていた』と容疑を認めている」

 夏が終わりに近づく頃、ある情報が寄せられた。父親と兄の遺体を自宅に放置したまま軽トラックで数日間にわたって放浪していたところを警察官に発見されたという佐藤一雄容疑者(50代・仮名)。発見された場所から推察しても、積極的に逃走していたわけではなさそうだった。そして逮捕されたのち、不起訴となっていた。

 都心から車で2時間あまり。男性の自宅は四方を山に囲まれた田園地帯の一角にあった。近くまで行くと、現地の記者が私の到着を待ってくれていた。長らく孤独な取材が続いていたので「相棒」がいるのは心強かった。まずは地域の人に話を聞いてみる。

「佐藤さんのお子さんは、ここ十数年くらい職に就いていなかったんじゃないかな。昔は働きに出ていた気がする」

「人付き合いを避けるような印象。普段は何をしているのかわからない」

 こうした証言は、今回取材したどのケースでもさほど変わらなかった。佐藤さんの自宅は周囲を高い垣根に覆われ、公道からは一段低い位置にあった。建てられてからかなりの年月が経っていると思われる木造住宅にはインターフォンは見当たらず、扉を叩いて訪問を告げると、まもなくなかから応答があった。