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「捜査当局にとって痴漢は重大事件ではないので、捜査官の熱が冷めてしまうのかも…」それでも日本で“痴漢冤罪”による前科・前歴が生まれ続けるワケ

『生涯弁護人 事件ファイル2』より #2

2021/12/12

たとえ冤罪でも前科前歴は一生消えない

 痴漢行為に限らず、何らかの罪に問われて逮捕されると「前歴」になる。逮捕されても起訴されなかった場合や、起訴されても有罪判決を受けなかった場合でも前歴が付く。

 一方、起訴されて有罪判決を受ければ「前科」になる。逮捕された段階で前歴は付いているわけだから、有罪が確定すれば前歴も前科も付くことになる。

 条例違反の事件で略式命令(公判手続を経ないで、検察官提出の書類のみを審査して、100万円(改正前は50万円)以下の罰金または科料に処す場合)で罰金刑を受けた場合も、有罪判決には変わりないので、前科となる。

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 執行猶予が付いてその期間を無事に終えれば、刑の言い渡しは効力を失う(刑法第27条)。しかし、刑の言い渡しの事実そのものまでなくなるわけではないので、将来その人が同種の罪を再び犯した場合には情状が悪くなり、量刑に影響する可能性が高い。

 前科が付くと仕事にも影響する。禁錮刑以上を受けた人は、刑の執行が終わるまで国家公務員・地方公務員にはなれない。裁判官・検察官・弁護士・学校の校長や教員などは、刑の言い渡しが効力を失うまで(執行猶予期間を無事に満了するまで、もしくは刑の執行終了から10年経過するまで)その職に就く資格がない(つまり裁判官や弁護士になることができない)ことになっている。

 前科前歴は戸籍に載るわけではないが、痴漢で有罪になったことがあると結婚後にわかれば、それが本当は冤罪であったとしても、「そんな大事なことをなぜ黙っていたの?」と、パートナーから責められるかもしれない。

 たとえ条例違反といえども、社会的な地位や立場、家族との関係などに問題が出てくるかもしれないし、何より自分自身の名誉が傷つくことになる。

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