痴漢の罪とは
法律上、「痴漢罪」というものはない。痴漢行為に対して適用されるのは、主に地方公共団体ごとに定められた迷惑防止条例か、刑法第176条の「強制わいせつ」のいずれかだ。
このほかに痴漢行為の種類や程度によって、軽犯罪法第1条5号、わいせつ物頒布罪(刑法第175条)、公然わいせつ罪(同第174条)、暴行罪(同第208条)、鉄道事業者への威力業務妨害(同第234条などにより処罰されるケースもあるが、ここでは迷惑防止条例と「強制わいせつ」について簡単に説明する。
【迷惑防止条例の適用(*5)】
たとえば、東京都の迷惑防止条例(正式名称は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)では、第5条に「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。(1)公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。」と規定されており、この規定に違反した者は、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される(第8条)。
他の地方公共団体でも同様の主旨の規定があり、それに対する刑事罰が適用される。
なお、迷惑防止条例では身体に触れる痴漢行為のほかに、盗撮、つきまとい行為(いわゆるストーカー行為全般。無言電話や性的羞恥心を害する文書・図画・電磁的記録の送りつけなどの嫌がらせも含む)など、刑法犯まではいかないがそれに類する“人が嫌がるような行為”も処罰の対象となっている。
*5 迷惑防止条例の適用:迷惑防止条例の施行当初は痴漢等の保護対象が女性のみに限られていたが、男性も被害に遭うことが考えられるとの認識が広がったため、現在では全都道府県の迷惑防止条例が保護対象となる性別を限定していない。
【刑法第176条「強制わいせつ」の適用】
たとえば、人の下着の中に手を入れて身体に直接触るなどの行為には「強制わいせつ」が適用される。刑法第176条には、相手に対して暴行や脅迫を用いて猥褻な行為をした者は6ヵ月以上10年(改正前は7年)以下の懲役に処す旨が規定されており、こうした行為は未遂であっても処罰される(刑法第180条「未遂罪」)。