世間では「模範的施設」と称賛されていた岡田更生館。しかしその裏の顔は、公金横領を隠蔽するために収容者を虐待死させる「ナチスの強制収容所」さながらの生き地獄だった。

「悪臭を放つ泥のような雑炊」に「痩せこけた全裸の収容者」……決死の潜入取材で地獄の全貌を暴いた毎日新聞記者たちの追跡劇を、鉄人社の文庫新刊『戦後まもない日本で起きた30の怖い事件』よりお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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本当に「生き地獄」はあるのか

 一方、施設では定期的に県や警察による視察や、時に新聞社が取材に訪れることもあったが、そうした日は健康状態の良い者だけが表に出されていたほか、館長や職員らが様々な隠蔽工作を施していたため、岡田更生館の実態が明るみになることはなく、世間的には良好な施設としての印象のみが抱かれ続ける。

 北川の限界は入所1ヶ月でやって来て、監視の目が緩くなるタイミングを見計らい施設から脱走。このとき、実態を世に暴露することを心に決めていたが、岡田更生館が県営の施設のため、警察もグルである可能性が高いと判断。新聞社に内情を知らせて記事を書いてもらうべく大阪まで足を運び、毎日新聞を訪ねたのだという。

 北川の証言を聞いた毎日の宿直者はメモに書き起こし、社会部副部長に報告。ただならぬ事態と察した副部長は部下の大森実(当時27歳)記者とベテランカメラマンの向井賢治を岡山の現地に派遣し取材を行うよう命じる。

 もっとも大森は当初、全ては自称詩人の北川による作り話ではないかと疑っていた。実際に岡山県庁で取材を行っても、岡田更生館を高く評価する好意的な声しか聞こえてこず、中には模範施設として報じた新聞の切り抜きをわざわざ取り出して見せてくれる県主事もいたほどだった。

 本当に、岡田更生館で北川の言うような生き地獄が展開されているのだろうか。