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2021/12/04

source : 文藝春秋

genre : エンタメ, 音楽

久しぶりに「Char」から「竹中尚人」に戻った

 今思い返してみると、イギリスに行った時の自分は、精神的にも肉体的にも、もしくは能力的にも……窮地に立たされていたんだと思う。渡英してからの1~2カ月は、毎日のように酒を飲んだくれて街をブラブラしていた。コヴェント・ガーデンでストリート・ミュージシャンの演奏を見たり、ライブハウスに行ったり、サッカーを観戦したり、ノッティングヒルのレゲエ・フェスティバルに足を運んだりしながら日々を過ごすうちに、ある日突然「作曲しよう」という気持ちが芽生えたんだ。

 イギリスにはギターも持たずに行っていたから、急遽日本からアコースティック・ギターを送ってもらい、オモチャみたいなカシオのシンセサイザーなんかを使ってデモを作り始めた。今思えばアイディアが枯渇したのではなく、全部出し切ったことで必然的に何かを蓄積しなきゃいけないと、無意識のうちに音楽的な刺激を求めていたんだと思う。イギリスで過ごした3~4カ月は、当時の俺にとっては何年にも感じるくらい濃密な時間だった。デビュー以来、久しぶりにCharから竹中尚人に戻った瞬間だったかもしれない。

 その後日本に戻ってからも、忙しい日々の隙間を縫って新曲を作り始めた。あれほど遠ざけていた最新のシンセサイザーを導入し、「Charならどう使いこなすか?」って考え方で積極的に取り入れるようになった。それまではメンバーのことを想像しながら作曲していたところもあったけど、それが一切なくなったんだ。頭の中で鳴っているストリングスやホーン・セクションなんかを、シンセを使ってアレンジできるようになり、そういうアプローチをおもしろがれる若いエンジニアと一緒になって、イメージを具現化していくのはめちゃくちゃ楽しかった。新たに生まれた機材にしても自分の置かれている環境にしても、いろんな変化を楽しんでいかないといけないということを確信した時だったね。その方向性は、やがてPSYCHEDELIXという表現スタイルへとつながっていくことになる。

PSYCHEDELIXのファーストアルバム「PSYCHEDELIX」

長い音楽人生で唯一「純粋な自分」になれる場所

 JL&C、ピンククラウドでの経験は、今の自分の考え方にも大きな影響を与えている。テンポにしてもビートにしてもコード進行にしても、平気で一般的なセオリーを無視した手法で音楽と向き合えるのは、JL&Cで追求してきた手法や考え方なんかが、今の自分の血肉になっているからなんだ。その一例が、ロックやポピュラー・ミュージックの大きな要素である2拍4拍のバックビートで踊らせるところを、JL&Cでぶっ壊しまくったところなんじゃないかな。普通だったらやらないような無茶なアイディアでも「ピンククラウドだったらどうやるんだろう?」というひとつの物差しが今も自分の中に存在しているからね。

 ひょっとしたらジョニーもマーちゃんも俺も……3人で集まって音を出している瞬間が長い音楽人生の中で唯一「純粋な自分」になれる場所だったんじゃないかな。たぶん、きっとね。

Text : Masaya Bito

 2021年12月11日(土)には、デビュー45周年記念ライブ「Char 45th anniversary concert special」が東京・日本武道館で開催される。

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