飛ぶ前は不安でしょうがなかった
タイガーマスクだって、そんなに飛んだり跳ねたりしていたわけじゃない。動きの緩急のつけ方が絶妙でキレもあったから、技の一つ一つがお客さんの印象に残っているだけで、空中殺法は『ここぞ』というタイミングだけで出していたはずですよ。
今のプロレスは高度な空中殺法や、複雑な技の切り返しが展開されているけど、どこかリング上の選手同士が二人で一つの動きをつくろうとしているように見えてしまうところがある。武藤(敬司)が『フィギュアスケートのペアみたいだ』と言ってたらしいけど、まさにそんな感じ。
それが悪いと言ってるわけじゃないけど、俺たちがやってたプロレスはそうじゃなかったから。
ドラゴン・ロケットにしても、相手が避ける可能性が常にあったから、飛ぶ前は不安でしょうがなかった。実際、俺はチャボ・ゲレロにドラゴン・ロケットを避けられて、そのまま客席のパイプ椅子の中に突っ込んで、頭をざっくりと切っちゃったことがあるからね」
『プロレスは闘いなんだ』
そして藤波は、今のジュニア戦士たちとタイガーマスクの動きの違いをこう語る。
「今の選手の動きの速さと、佐山の動きの速さのいちばんの違いは、佐山の場合、すべて理にかなった動きなんですよ。闘いに必要のない動きはしない。それと彼は他の格闘技の技術を採り入れたり、すごく研究熱心。マーシャルアーツやキックボクシングの技術も身につけたり、彼の動きは“本物”なんですよ。
それでいて華麗だから、漫画のイメージを損なわず、それ以上の驚きをお客さんに提供していた。だからこそ、あれだけ多くの人から支持を集めたんだろうし、我々レスラーでも、タイガーマスクの試合を見ていると、リングの闘いに引き込まれてしまうくらいだったからね。
それこそが、猪木さんがよく言っていた『プロレスは闘いなんだ』ということ。たしかに、今のプロレスは技術が進歩しているし、技も高度になっている。でも、“闘い”を失ってしまったらダメ。タイガーマスクの試合がいま見ても面白いのは、空中殺法がすごいだけじゃない。しっかりとした“闘い”を見せていたから。そういう意味でタイガーマスクの試合は、猪木さんの試合とは少し違うけど、新日本のストロングスタイルを体現していたと思いますよ」
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