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海風を受けた築5年の中古、駅から30分、管理費は5万近く… なぜ悪条件の「元東京五輪選手村・晴海フラッグ」が“倍率111”の人気物件になったのか

SNSでは埼玉県川口市のプラウドタワーとの比較で忙しい

2021/12/14

実際に維持できるのは、よほど余裕のある人たちだけ

 いっぽうで、販売前よりこの物件については不動産関係者の間でも賛否両論。価格は安いが、最寄り駅「勝どき」駅まで、各棟入口より17分から20分。棟内移動などを加味すれば30分以上であり、中央区アドレスといえど、交通利便性に疑問符をつける向きもあれば、いやいや、虎ノ門、新橋までBRT(バス高速輸送システム)でつながるので、都心部への通勤はむしろ快適だ、などといった論戦が展開されてきた。

 確かに晴海、勝どきなどで分譲されてきたタワーマンションなどの新築、中古相場と比較すると割安感があるものの、駅からの距離は通勤を主体とする勤労者には決して良い条件とはいえない。建物も新築とは言い難く、海風をまともに受け、築4年から5年経過した物件を買うということは、今後の大規模修繕などの到来も少し早めに覚悟しておく必要がありそうだ。

 毎月必ず支払わねばならない管理費、修繕維持積立金の合計額もSUN VILLAGEで27,000円から50,000円、SEA VILLAGEで40,000円から56,000円にもなる。駅から遠いということは車利用で補うという考えになるが、駐車場代もばかにならない。月額28,500円から36,000円とこのあたりの価格としては決して割安とはいえない。

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 つまり、晴海フラッグを買ったのちも、車まで持てば毎月住宅ローン返済などとは別に55,000円から90,000円以上の負担を求められることになる。よほど日々のお財布にも余裕のある人でなければ、そもそも晴海フラッグの顧客対象にはなりえないことがわかる。

晴海フラッグを「安い」と考えているのは誰なのか?

 ということは晴海フラッグが一般庶民、つまり国が発表している平均世帯年収が約550万円程度の夫婦やファミリーが買えるかといえば、まず無理だということになる。都有地だった土地が、デベロッパーにかなり廉価で卸されたのにもかかわらず、最近の建築費の高騰もあるだろうが、少なくとも一般庶民の手には到底届かない価格のマンションになって販売されている、という意味ではこの物件は決して「お安い」とは言えないだろう。

 ではこの販売価格を「安い!」と考えているのは誰なのか、ということになる。そもそも都区内の新築マンション販売価格の平均は20年で7712万円だ。都区内でしかも都心3区に該当する中央区で販売されるマンションとして割安であるというのは頷けるものの、果たして累計4000戸を超える部屋を、みんなが割安だ!といって飛びつくサマはなかなか想像しづらいものがある。

 実は近年、都区内の新築マンションの買手は一般庶民ではない。こうした物件を手にしているのは、国内外の投資家、富裕層、相続対策などの節税、そして唯一実需と呼べそうなのが夫婦共働きのパワーカップル、ただし夫婦合計で世帯年収1500万円以上、できれば2000万円を超える層、この4つのカテゴリーである。