CMで「尿一滴で、精度86%のがん検査」を謳っている、HIROTSUバイオサイエンス(以下、H社)の線虫がん検査を巡って、関係者から検査方法に疑義の声が上がっていることが「週刊文春」の取材でわかった。
H社は線虫でがんが判定できるとする検査キット「N‐NOSE」を2020年10月に発売。『ガイアの夜明け』(テレ東系)などのテレビ番組で大きく報じられ、この10月からは俳優の東山紀之が出演するテレビCMも放送されている。
H社の広津崇亮代表によれば、線虫はがん患者の尿の匂いを好み、そちらへ向かう。一方、健常者の尿の匂いは嫌うため、線虫の動く方向で、がんの判定が出来るのだという。その線虫の習性を利用したのが「N‐NOSE」。これを使えば、胃がん、大腸がんなどの五大がんに加え、肝がん、前立腺がんなど、全15種類のがんが判定できるという。
「N‐NOSE」の値段は1回1万2500円。4~6週間で結果が分かる。検査の精度も高く、HPには「がんに対する高い感度86.3%が報告されている」とあり、H社のHPにはがん患者の尿を置いたシャーレでは数十匹の線虫が尿の周りに集まり、健常者の尿を置いたシャーレでは、線虫が反対側に数十匹集まっている写真が掲載されている。
しかし、「こんなにはっきりと分かれるのを見たことがない」と元社員は断言する。
「線虫は温度、湿度など様々な要因の影響を受けるため、尿の匂いだけに反応して動くのか分かりません。実際、検査する線虫の数が50匹の場合、左右に分かれる数の差は10匹以下がほとんど。わずかな差で、陽性・陰性を判定している」
広津代表の判断で結果が陽性にも陰性にも変わることもある。別の元社員が言う。
「代表は検査員や研究員の検査を『上手い』『下手』と表現します。正解率が高いデータは『上手い』と採用し、都合の悪いデータは『下手だ』と破棄していた。『上手い』検査員しか再現できないなら実用化するのは危険だと、実用化直前に訴えた社員もいましたが、聞き入れられませんでした」
20年10月には商品化がスタート。検査のオートメーション化も始まった。しかし――。