結局、漁村・漁家の疲弊は、沿岸漁業はもちろんのこと、沖合・遠洋漁業にも悪影響をおよぼし、日本の漁業を人材面から尻すぼみにさせる要因となっている。まさに負のスパイラルといえよう。
労働力不足
日本はすでに、総人口ばかりか生産年齢人口の減少局面にも入っている。合計特殊出生率は人口維持に必要な値には遠く及ばず、2005年に記録した過去最低の1.26からわずかに反発した程度(2019年は1.36)で推移している。4.3を記録した第一次ベビーブーム期と比べれば雲泥の差だ。低迷もニュースとしての価値はまるで低下しており、驚くことでもなくなった。
年間出生数が100万人を下回ったと大騒ぎになったのもかつてのことで、2019年に生まれた子どもの数は過去最低を更新する86万5239人(確定値)と、4年連続で100万人割れとなっている。「調査開始以来過去最少」は決まり文句として定着した。
出生数の低迷は高齢化と表裏一体であり、総人口の減少のなか、高齢化率は28.8%(2020年)を記録。この数字は世界で最も高いとされる。後期高齢者が前期高齢者を上回ったことを意味する「重老齢社会」が到来したかと思えば、次は「2025年問題」がやってくるという。1940年代後半に生まれた「団塊の世代」が医療費負担の大きい後期高齢者となるのが2025年とのことで、もう手の届くところまでにきてしまった。
現役世代には恐ろしい、日本の高齢者人口がピークを迎え、現役世代1.5人が高齢者1人を支える構図になる「2040年問題」も遠い未来の話ではなくなっている。
こうした厳しい人口事情・労働力事情があるなかで、労働環境が恵まれているとは言い難い漁業が簡単に労働力を確保できるはずもなく、既述した人材不足が露呈している。
現在、日本の食料供給に不可欠な漁業就業者は、沿岸、沖合、遠洋、養殖とすべてを合わせても15万人ほどしかおらず、地方都市人口程度の就業者でその任を負っている。しかしそれはすでに限界に達しており、日本人だけで産業が維持できない状況になって久しい。
労働力不足は、とくに多くの雇用労働力を必要とする、沖合などで操業する漁船漁業で顕著になっている。それは有効求人倍率の推移に反映されるようになった。
各年の国土交通省「船員職業安定年報」をみると、漁船の有効求人倍率は「団塊の世代」の退職で労働力不足に直面していた商船を2016年に抜きさり、さらに2018年にはついに3の大台を超えて3.02となる。2019年には、商船が足踏みするなか引き離しにかかり、3.56に伸びた。全産業は1.60であるので、漁船は倍以上だ。
リーマン・ショック後は、しばらく一を大きく下回っていただけに、その急激な求人倍率の上昇からは、“臨界点”に到達した漁船乗組員の高齢化や、労働力供給源となってきた漁村の疲弊など、様々な要因が連想されるところとなっている。