インドネシア人が日本漁業を支えている
現在、沖合漁船に乗り組んで私たちに魚を獲ってきてくれる技能実習生は、全員が男性の若きインドネシア人だ。定置網漁業や養殖業で用いられる作業船には、ベトナム人などもみられるが、漁撈船ではインドネシア人の独擅場となっている。
かつてはフィリピンや中国からの若者も働いていたが、インドネシア人は体格も日本人に近く、酒を好まない敬虔なイスラム教徒が多いことから歓迎され、活躍の場を広げた。
インドネシア依存は遠洋漁船(マルシップ漁船)でもみられており、日本漁業には不可欠な存在となっている。日本の漁業界でインドネシア依存が深まる要素は多岐にわたる。
インドネシア全土に水産高校が整備されていることや、現地の賃金水準が依然として低いこと、労働集約的な産業が多数残存するインドネシアでは高学歴者の失業率が相対的に高いことなどがある。実際、現地調査では、水産高校の卒業生は高学歴すぎるとして、雇いたくないという漁業会社の社長に会った。
水産高校を卒業した“エリート”の彼らにとって、活躍の場が狭いインドネシアではなく、海外で学歴を得るまでに費やした努力と獲得した技能をお金に換えたいと思うのは当然のことだろう。そのため、日本だけでなく韓国や台湾などで働くインドネシア人船員の姿をみることも珍しくない。彼らの活躍の場は世界の海なのだ。
ただ、韓国や中国の漁船は相対的に過酷な労働環境であることが多く、それを敬遠して日本漁船に優秀な人材が向かいやすい状況も一部でみられる。中国漁船では、海上で亡くなったインドネシア人船員が水葬と称して「海洋投棄」される事件が表面化した。
台湾の場合、特定の便宜置籍船(規制を逃れるため船籍を他国に挿げ替えた船)での虐待や長時間労働が問題になっており、アメリカは2020年、こうした台湾の遠洋漁船団によって漁獲された魚を「強制労働によって生産された品目リスト」に加えた。
日本の漁船も労働環境は決して良好とはいえないが、息子のようにかわいがる船主や船頭もおり、陸に上がれば食事に連れ出したり、給与以外に小遣いを渡したりしている。こうした話はSNSが普及した今日、すぐにインドネシアにいる後輩に伝わる。日本漁船がインドネシア人労働力を確保できているということは、現段階では、日本とインドネシアの共存関係がなんとか保たれ、崩れていないことを意味している。
なお、遠洋漁業で雇用されるマルシップ漁船の場合、入漁条件として漁場国労働者の雇用が義務付けられることがあり、全員をインドネシア人にすることは不可能で、フィジーやキリバス、ミクロネシア連邦等の漁場国の労働者が働く姿がみられる。
大の酒好きであることが玉に瑕であるが、彼らもレスラーのような体格を活かし、はるか海のかなたで活躍している。
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