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中国漁船では海上で亡くなった船員を「海洋投棄」したことも…水産高校を卒業した“エリート外国人”が日本漁業に集まる“納得の理由”

中国漁船では海上で亡くなった船員を「海洋投棄」したことも…水産高校を卒業した“エリート外国人”が日本漁業に集まる“納得の理由”

『東シナ海 漁民たちの国境紛争』より #1

2021/12/16
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外国人労働力の導入

 労働力不足に対して、漁業界は外国人依存を強めた。遠洋漁業ではマルシップ制度で、沖合漁業では技能実習制度で外国人労働力を確保してきたのだ。

 前者のマルシップ制度は、日本法人が所有する船舶を外国法人に貸し渡し、その外国法人が現地で外国人船員(マルシップ船員)を乗り組ませたうえで、貸し渡した日本法人が定期用船として再度チャーターする制度となっている。外国人労働者は、あくまで外国の漁業会社の従業員であるという建て付けを維持するための制度である。

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 マルシップは、1970年代後半に商船に導入された制度で、世界的な運賃競争の激化を受けて取り組まれた、人件費削減を目指した外国人混乗制度として重宝されてきた。

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 遠洋漁業では1990年に「海船協方式」という名称で導入され、燃油費や入漁料といった操業コスト高、それに外国漁船との競合激化に苦しむ漁業経営体を側面支援する。1998年には、従来の混乗率上限40%を上回って外国人船員を乗せることができる漁船マルシップ制度へと移行して、今日にいたっている。

 遠洋マグロはえ縄漁業や遠洋カツオ一本釣り漁業が大きく経営体数を減らすなかでさえ、この制度で雇用されるマルシップ船員は4059人(2020年)にのぼる。

 後者の外国人技能実習制度は、1989年に在留資格が明確化された外国人研修制度を土台としたもので、沖合漁業では1992年からカツオ一本釣り漁業で導入された。

 その後、イカ釣り漁業やはえ縄漁業、さらにはまき網漁業や底びき網漁業などへと受け入れ可能漁業を順次拡大している。2020年に入ってからは、業界が渇望していたサンマ棒受網漁業での活用も可能となった。

 養殖を除く漁業分野で働く技能実習生は、年間約200人の増加ペースで拡大しており、2020年には1917人となった。

 近年、漁業は新たな在留資格「特定技能」による労働力確保の道も得ている。新制度は、家族の呼び寄せが可能で、永住への道筋を示した制度として大きな議論を呼んだ。

 漁業でも2020年以降、2年10ヶ月以上の技能実習を修了した外国人が、この新在留資格を取得して就労することが可能となっている。2021年6月時点では、この制度を使い198人が働いている。

 技能実習を経ていない者を受け入れるための、「漁業技能測定試験」と日本語能力試験も実施されはじめた。漁業界をも巻き込む外国人労働力の受け入れ態勢整備は、移民制度の正式導入の発表を待つだけのような充実したものになっている。

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