「俺たちからみれば、あれは海賊船だ」
この追跡事件から8年あまりたった現在、尖閣諸島はより緊張感の高い漁場へと変化している。尖閣諸島には海警船が常駐するようになっており、日本の漁師たちは慣れ親しんだ漁場を放棄せざるを得なくなっているのだ。コロナ禍によって魚価が低迷するなか、少しでも量をかせぎたい漁師にとって漁場の消失はまさに痛恨事だ。
日本漁船をターゲットとした我が物顔の海警船の示威行為は、従来の魚釣島周辺だけにとどまらず、大正島にまでおよんでいる。
2020年10月15日には、単独で大正島漁場に向かっていた熊本県の19トン型漁船が、大正島西方の領海にでたり入ったりしていた海警船4隻に突如追尾される事件が発生。日本漁船の領海内への「侵入」を阻止するかのごとく接近した海警船団は、9時から17時までの8時間にわたって執拗に日本漁船につきまとった。
この漁船は、海警船が跋扈する魚釣島漁場での緊張を嫌気して大正島に漁場を求めた結果、今度は大正島にいた海警船の“餌食”となってしまったのである。この緊急事態に、海上保安庁の大小の巡視船10隻ほどが駆け付け、護衛して事なきを得たものの、どこに行っても海警だらけとなった尖閣の海で、日本漁船はさまよっている。
朝から追いかけ回され、青息吐息で那覇に戻った漁師は、「目星を付けやすい魚釣島の漁場を失い、そしていよいよ大正島もだ」と肩を落とした。その時の様子を聞こうとすると、「俺たちの前で中国公船という呼び方は止めて欲しい」と、少しいらだって質問を遮った。生活を脅かされている者が発した、「俺たちからみれば、あれは海賊船だ」との言葉は重い。
後はもう、泡盛を呷るだけの漁師が続ける。「尖閣の海を失えば獲れる魚は半分になる。俺たちの行き先は与那国など、沖縄の沿岸漁師がいる場所になる。そうなったら日本人同士で魚の奪い合いになる」
国際問題が国内問題に移し替えられる辛酸を、今、日本人漁師の多くが嘗めている。