台湾の強硬姿勢
侵入した漁船には、経営トップが中国との深い関係を取りざたされている、旺旺中時媒体集団から資金援助された船もあった。旺旺中時媒体集団は、台湾の大手マスコミグループの一角を占めていることから、日本政府や現場で対応した海上保安庁は、神経をすり減らした。漁船には、記者も乗り込んでいると考えられたのだ。
日本の海上保安庁にあたる台湾行政院海岸巡防署(現在の海巡署:R.O.C. Coast Guard)も強硬な姿勢を示す。「国民の自発的な保釣」活動については、「保護責任を必ずや全うする」とした。さらに巡視船を適切に配置し、「漁民の釣魚台海域における漁業権および安全を保障していく」と表明〔行政院海岸巡防署・2012年9月24日〕。海岸巡防署は、「主権防衛、漁業権保護」を徹底するとの姿勢を貫いていたのだ。
さらにこの時、中国が、台湾漁船や台湾公船の背後から公船「海監」を接近させ、台湾とともに日本を制する機運の醸成工作を図る。「国有化」は事態を鎮静化させるのではなく、次々と難題を降って湧かせることになったのだ。中台の連携、台湾の大陸への接近は何より避けたい事態であったので、日本政府は窮地に追いやられた。
「国有化」後の東シナ海は混迷を深める
日本政府による尖閣諸島の「国有化」は、中国にとって“慶事”だった。表向き、日本政府に主権侵害への抗議を繰り返すものの、その実、問題の「棚上げ」を放棄したと解釈できる日本政府の行動は、尖閣諸島に堂々と実力を行使できるチャンスの到来とうつった。
国際社会へも、数々の対日圧力は日本政府の「一方的な主権侵害行為」への対抗策であると説明できることもよかった。
そもそも、領土問題を「核心的利益」に位置付ける中国共産党が、日本政府の「悪手」を見過ごすはずもなく、以降、中国による日本への圧力は目に見えて強まっていく。
中国政府は、「日本政府の現状変更」を奇貨に尖閣諸島へ公船を送り込む。尖閣諸島の領海および接続水域への侵入は、「国有化」をきっかけにして実質的に「開始」された。
日本側は、侵入急増に対応するため、石垣島や宮古島にある海上保安庁の拠点を拡充し、石垣島にはヘリを搭載できる大型巡視船など12隻からなる“尖閣専従部隊”を組織して対応に当たらざるを得なくなっている。水産庁も、ヘリを搭載できる漁業取締船や航空機を追加取得し、取締体制の強化を図った。