東シナ海の軍事化と「第二の海軍」の膨張
日本側が防禦体制の整備・構築に努めている間にも、中国側は海洋進出の意思をより明確にし、それに見合う組織の整備・増強を、日本側を上回るペースで進めている。
尖閣海域において海上保安庁の巡視船と対峙する中国海警局(China Coast Guard)の海警船は、2018年7月以降、中国共産党中央軍事委員会隷下の人民武装警察に編入されたのだ。司令には、東海艦隊の副参謀長を務めた王仲才少将が就任。中央軍事委員会という政府中枢の直轄となり、また海軍エリートによる陣頭指揮のもと、軍と警察組織の一体運用が図られるようになっている。
配備される船も強靭で、1000トン以上の大型船だけでも130隻以上あり、日本の70隻規模を大きく上回る。名実ともに“第二の海軍”として存在感を発揮している。火力を向上させた「海軍汎用型をモデルにした海警船の建造も確認されている」との声もある。
日本政府はもちろんのこと、アメリカ政府も海警局への警戒感は強く、国防情報局(DIA)は世界最大の沿岸警備組織とみている。アメリカ沿岸警備隊も海警船を警戒し、2019年以降、東シナ海に4500トンクラスの警備艦を派遣しているほどだ。
踏ん張る海上保安庁
海上保安庁は、シーマンシップにのっとって、「海の憲法」と呼ばれている「国連海洋法条約」や、国際海事機関(IMO)が定めた海上交通ルールにもとづいて「丁寧」に対処しているが、意思の疎通が難しい中国公船を相手に、警備の難易度はあがっている。
ある海上保安庁の幹部は、「現場の状況は悪化の一途だ。一体いつまでがっぷり4つの状態を継続しなければならないのか」と憤る。そして「船や装備の増強が必要だと簡単に言われるが、動かすのは人であり、人材育成は一朝一夕にはできない。このまま量の勝負になると限界が見えてくる」と吐露する。
日本の漁師も苦しんでいる。2013年2月4日には、魚釣島西4マイルの領海内で早朝から操業していた、鹿児島県の19トン型漁船2隻が中国公船の突然の進路変更・追跡によって操業妨害を受ける事件が発生した。
この時、2隻の漁船は魚釣島や北小島・南小島の周りで半日におよぶ執拗な追跡を受けている。結局、魚釣島を3周してもなお中国公船の追尾は続き、敦賀海上保安部から応援に来ていた巡視船「えちぜん」(350トン)などの助けを借りて、日の沈む直前となって、かろうじて与那国方面に逃げ切ることができた。
母港の岩本漁港に戻った漁師はくさくさしてつぶやいた。「あいつらは最初俺たちが接近されても漁を止めなかったことにイラついたんだと思うよ。だっていきなりだからね、踵を返したの。結局、俺たちを威嚇して、俺たちがビビる様子が見たかったんだよ」
鹿児島茶を苦そうにすする漁師は、いつになく元気がなかった。