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「これが日本の芸能界の現実ですね」多様性のある社会を目指して活動を続ける東ちづるが直面した“周囲の反応”とは

『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』より #2

2021/12/16
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社会にとって当たり前ではなかった

 次に指摘が入ったのは「異形」という言葉だった。

 身体障害を持ったダンサー、森田かずよが出演する舞台は「異形の島」と名付けられた島になるはずだった。ところが、製作の過程でこの言葉に組織委側から「待った」がかかった。端的に言えば「異形」という言葉が、差別や偏見を助長する懸念が残るという趣旨だった。彼女の身体、そして身体表現を美しいものだと思っている東はなぜ「異形」がダメなのかの説明を求め、この言葉をどうしても使いたいと主張した。

 組織委側は「ならば本人はどう思っているんですか?」と聞いてきたが、森田自身も問題があるとは思っていない。むしろ、オファーを喜んで受け入れていた。

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 周囲のメンバーに話せば、なにもかもが「えぇ~」と驚くところから始まるが、しかし、一歩引いて社会を眺めてみようと彼女は思った。「多様性」を実践して、動き出している人たちのほうがはるかに少数派という現実がある。活動を通して、自分たちにとって当たり前になったことは、社会にとって当たり前ではない。東は言う。だからこそ、一から説明しなければいけないのだ、と。調査会社に依頼し、インターネット調査で「まぜこぜ」という言葉のイメージを調べてもらい、データを揃えたうえで「まぜこぜ」という言葉を使う意味を理解してもらえるよう粘り強い説得を続けた。

「異形」という言葉は東も本人も問題ないと判断したにもかかわらず、「待った」は覆ることなく、議論を重ねた結果、最後は「異相の島」という表現に落ち着いた。言葉を巡る問題が起きるたびに、自分たちもまた閉じた空間の中にいたことに気づけるポジティブな機会として、捉えるようになった。

難航するキャスティング

 キャスティングも難航した。この人に出てもらいたいと考えてオファーする中で、障害をもった多くのアーティストたちは出演を快諾した。自閉症のダンサー、光陽師 想真もその一人だ。パラリンピック開会式でも狐の面をつけた印象的なパフォーマンスで会場を沸かせたダンサーである。私は別の取材現場で知り合う機会があり、その後も付き合いが続いていたが、コロナ禍で直接会う機会はめっきり減っていた。

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