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対等に「わかろうとする」ところから始める

 自分が生きてきた芸能界の現実を口先だけで嘆くことを、彼女は良しとはしなかった。発達障害があろうが、身体障害があろうがまったく関係なく「突き抜けた個性」を持った表現者たちが集まる舞台を構想し、実現まで持っていった。

 2017年12月に品川プリンスホテル「クラブeX」で上演された「月夜のからくりハウス」には、彼女の哲学が詰め込まれていた。コンセプトは、平成まぜこぜ一座と名付けた出演者たちの「見世物小屋」である。クラウドファンディングで資金を募り、「極上」のエンターテインメントを目指した。

 こうした活動は「障害者支援」という言葉でメディア上では広まっていく。「東さんは、熱心に支援していますね」という言葉を聞くたびに、違和感があったという。「支援」というのは、自分が上位に立つということである。重度の障害のある人から「結局のところ、ちづるさんにはわからないでしょ」と言われても、「わかりません」と返している。お互いが対等で「わからない」ものはわからない。だからこそ対等に「わかろうとする」ところから始めていく。ここが大切なのだ、という思いが根底にある。

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東京2020組織委員会からのオファー

 そんな彼女にやってきた連絡というのは、長い芸能生活のなかでもトップクラスのサプライズだった。相手は東京2020組織委員会である。用件は、東京オリンピック・パラリンピックの大会公式文化プログラム「東京2020 NIPPONフェスティバル」の文化パートのうちの一つについて、総合構成・演出・総指揮をお願いできないかというものだった。彼女は依頼を受けるか否か、1カ月以上悩むことになる。

 先方の依頼は本気だった。しかし、世の中の分断を彼女は知っている。新型コロナ禍で開催に向けて動き出すことになった大会に反対する人が多数になるのは、至極当たり前のことだ。引き受けたとなれば、活動に協力してくれた人たちからも「幻滅した」「結局、魂を売ってあっち側にいったな」といったバッシングがやってくることも覚悟しないといけない。それは活動そのものの存続にも関わることになる。

 他方で、彼女の周囲にはオリンピックやパラリンピックを目指してきたアスリートもいる。彼女が活動をともにしてきた表現者たちにとっては、何よりも世界に知ってもらえる最高の機会になるだろうとも思った。現実の問題として、普段の活動ではスポンサー集めから苦労が始まる。世界中に届ける映像制作というのは、やろうと思ってもできないビッグプロジェクトだ。