どんな状況でも、どんな状態でも、誰も排除しない、されない社会で暮らしたい――
2012年に東ちづる氏が立ち上げた一般社団法人「Get in touch」は、そんな思いを胸に、創作活動・表現活動を通じた共生社会の実現をめざす団体として、障がい者アートなどのボランティア活動を行っている。
多忙なタレント活動のかたわら、彼女はどのような思いで活動を続けているのだろう。ここでは、ノンフィクションライター石戸諭氏の著書『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』(毎日新聞出版)の一部を抜粋。東氏が東京オリンピック・パラリンピック大会公式文化プログラム文化パートの総合構成・演出・総指揮を担当することになった際に直面した体験について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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まぜこぜ礼賛
「まぜこぜな社会」という言葉を聞いたとき、どう思うだろうか。すべての人が入り交じっている社会か、それとも秩序がまったくない混沌とした世界か──。
2020年11月の東京、それは東ちづるにとっていつもと変わらない一日の始まりだった。重要な連絡が来る予感はなにもなかった、と彼女は言った。芸能界で長く活動してきた彼女には、もう一つの顔がある。一般社団法人「Get in touch」を2012年に立ち上げ、「まぜこぜ」を目指して走り続けてきた団体トップとしての顔だ。もっとも、彼女にしてみればどちらも自身の「芸能活動」ということになるのだろう。
日本の芸能界には、「社会」を映し出すという発想がほとんどと言っていいくらいにない。学園ドラマが映し出す教室の中では、「障害者」はいないことになっている。つい動き回ってしまう子供もいなければ、街頭が映るような場面でも、子供連れはいても、車椅子ユーザーはどこにもいないし、外国人も出てこない。障害者が出る、となれば「障害」が主役の感動ストーリーになってしまい、日常が消えていく。かつて当たり前のように放映されていた「こびとプロレス」も、いつの間にかテレビから無くなり、タブーのような扱いになった。
彼女の友人が車椅子を使って街に出る。子供たちは好奇心を持って自分を見ているのに、その親は「見てはいけません」と言って、視線をそらすように促す。もっと興味を持って、話しかけてくれればそこで会話が生まれるにもかかわらず、こうして障害者は目に入ってきてはいけない存在として認識されていく。社会は、本当は「まぜこぜ」になっているはずなのに一体、誰が見えない存在にしているのか。