――疲れが取れないまま、昇級の一番を指すんですね。
横山 そうです。でも、対局前と後に眠れない棋士が多いと聞くので、みんな緊張しているんでしょうね。
昔は対局中に息ができず、このまま死んじゃうかもしれないと思ったこともあります。 しゃっくりが止まらなくなるんです。特に一分将棋で起きます。横になると楽になるので、50秒間だけ対局室からいなくなります。一手指したらばっと対局室を出て、ロビーにあるソファで時計を見ながら40秒間だけ体を横にして、またばっと戻ってバシッと指すんです。
――時間切れや予想外の手が飛んでくるリスクもあります。そこまで追いつめられるというのは、初めて聞きました。
横山 若いときはかなりの確率であって、特に順位戦は7割ぐらい出ました。終盤になると少しずつ苦しくなってきて、しんどかったです。緊張が高まってくると、何かしらの反応が体に出ちゃうんでしょうけどね。羽生先生(善治九段)も勝ちに近づくと手が震えて、丸山先生(忠久九段)と佐藤康光先生(九段)も佳境に差しかかると激しくせき込みますし。
――いまはないんですか。
横山 ええ。気づいたら息が楽になっていました。人間って、ちょっとずつ体が変わっていくみたいです。昔は対局中に食欲がなかったんですけど、いまは食事もできます。
C級1組、B級2組を短期間で突破した原動力は…
――確かに昔は雑炊をよく注文されていましたが、いまは定食とか丼ものを頼まれますね。
C級2組が12期だったのに対し、C級1組を2期、B級2組を4期で突破しました。その原動力は何でしょうか。
横山 よくわからないんです。自分は大学にいっていたし、棋士人生のスタートが遅いんですよ。C級1組には上がれてもいいんじゃないかと思ったけど、そこで終わっちゃうかなという気持ちもありました。だから、C級1組とB級2組を抜けられたのは自分でも驚いています。たまたま順位戦改革でB級1組への昇級枠が2つから3つになり、その恩恵を受けるとは思わなかったです。
――40代でキャリアハイです。すぐに結果が出なくても、地道に勉強を続けてきた成果でしょう。三段リーグのときは「ずっと同じことをやっていると気持ちが沈んでいって、いつまでたっても上がれないことに、心が耐えられない」とおっしゃっていました。それがプロだと腐らなかったのはなぜでしょうか。
横山 生活できるか、できないかというのは大きく違います。将棋人生で3番目にうれしかったのはC級2組を突破したこと。2番目はB級1組に昇級。いちばんは四段昇段です。
写真=石川啓次/文藝春秋