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――師匠や親と、退会する年齢と段級の目安を決めている人も多いと聞きます。受験や進学、就職の節目に考えるイメージです。

横山 師匠の桜井先生(昇八段)は決めなかったです。でも親に「この成績じゃプロになれないかもしれないから、大学にいきなさい」といわれたので、高校3年生で塾に通い、一般受験で中央大学に入りました。僕はそういう経験があるから、高校卒業までにプロになった人が大学にいくのは衝撃なんです。自分だったらその時間を将棋に使いたいと思っていましたから。

三段リーグで浮上できずに麻雀ばかりしていた

――浪人せずに中央大学商学部に合格し、5年かけて卒業されました。奨励会との両立が大変でしたか。

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横山 いや、麻雀を打ち過ぎました(笑)。大学にいったのは、将棋のことだけ考えたらマイナスですよ。でも奨励会とは違い、知り合った人が友達として交流できました。そのときにつながった棋道会(将棋部と囲碁部をあわせた部会)の人達が、いまでもお祝いしてくれます。それがすごくうれしくて、大学に入って本当によかったです。

 

――当時、大学に進む奨励会員は珍しいですね(※1)。

※1 中央大学に進学した棋士は、横山以外に米長邦雄永世棋聖(中退)、大内延介九段、高野智史六段、石田直裕五段など。近年は高校・大学の進学率が上がっている。背景に奨励会が平日ではなく休日・祝日に開催されるようになった、中学や高校、大学の一貫校が増えた、将棋を自己PRにした推薦入試の増加などが浮かぶ。

横山 みじめでしたよ。大学に行くのは、才能がなくてプロになれないんだなってことですから。

 周りの同年代が少しずつプロになって焦り出し、三段からは真剣に将棋を勉強するようになりました。いちばん速いのは山崎さん(17歳)。阿久津君(主税八段。17歳)、渡辺さん(明名人。15歳)、松尾さん(歩八段。19歳)、飯島さん(栄治八段。20歳)、宮田君(敦史七段。20歳)。年上かつ先輩は兄弟子の飯島さんだけで、年下や入会があとの人に抜かれるのはきつかった。

 いい方が悪いですが、三段リーグは腐っていくんです。ずっと同じことをやっていると気持ちが沈んでいって、いつまでたっても上がれないことに、心が耐えられない。それで麻雀とか楽しいほうにいっちゃいました。

 

 大学3年生で就活が始まり、奨励会を辞めるかを悩みました。「僕は就活しない」と親に伝えましたけど、「26歳で退会になったら、あなたは将棋しかできないのに就職できるの?」といわれましたよ。こっちがいくら将棋に懸けたいといっても、親から見たら心配ですよね。