故・河口俊彦八段は絶筆となった2015年の観戦記で、「横山は隠れた実力者である」「棋風は正統的でけれん味がなく、いつも苦労して勝っている、との印象がある。だが、それがプロの間で好感される」と評した。
横山はいつも早々に持ち時間を使いきり、延々と一分将棋を戦っている。普段は穏やかな表情が、対局だと目が据わって殺気立つ。一心不乱に考えたまま盤上に吸い込まれていくようで、終局すれば強張った顔がゆっくりと時間をかけて人間に戻っていく。
B級1組では藤井聡太竜王(当時は三冠)と初めて戦い、身をもってその強さを体感した。藤井将棋は深い。何が強いのかまでは、最後までわからなかった。
東代表となった「SUNTORY 将棋オールスター 東西対抗戦2021」は一手30秒将棋の早指し。参加した予選ブロックでは本命のひとりで、早指し棋戦では2016年に第24期銀河戦でベスト4に入った実績を持つ。横山は大舞台に不安もあるようだ。だが、それは自分に足りないものを見つめ続けていることの証であろう。勝負に絶対はない。だからこそ「できる限りの準備をします」といった気がした。
藤井将棋の強さの理由
――今年9月、B級1組で藤井聡太竜王と初対局でした。ネット中継では何回も解説されてきましたが、実際に盤を挟んでどうでしたか。
横山 まず、思ったよりも背が高かったです(笑)。藤井さんを実際に見たのは1、2回なので、面と向かったのは初めてなんですよ。
――年齢的にまだ身長が伸びているかもしれませんね。
横山 対局は一方的になってしまいましたけど、感想戦でいろいろ聞けたので勉強になりました。僕は家に帰ってから、必ず実戦の指し手と感想戦の内容をソフトにかけて精査します。そうするとより正確にわかるので、藤井さんの強さがより細かく理解できます。分析した結果、藤井さんはノーミス、水面下にある枝葉の部分もほとんど正確でした。
――俗な質問ですが、藤井竜王はどこが強いのでしょうか。
横山 よく皆さんに聞かれるんですけど……。僕も聞きたいぐらいです(笑)。「よく読んでいる」とありきたりのことはいえても、なぜそんなに正確に読めるのかはわかりません。この質問に答えられる人は、ほとんどいないんじゃないですか。藤井さん自身に聞いても、恐らく答えられない。野球でも、大谷翔平選手に「何でそんなにホームランを打てるんですか」と聞いても、本人は答えられないと思うんですよ。