昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集観る将棋、読む将棋

2021/12/25

――パソコンを使う仕事では、宿命でしょうね(笑)。藤井戦のときは、子猫が飛車に前脚を伸ばしているランチバッグが話題になりました。「リラックマ」などのゆるキャラが描かれた水筒カバーも見た記憶があります。

横山 そういうのは好きですね。対局にお気に入りのものを持ってくる人は多いと思います。自分は扇子、いろんな飲み物。あとはバナナですね。以前は1本しか買っていなかったんですけど、今年の春に深夜で千日手になったときに栄養補給ができなくなっちゃって。それで苦しんだので、いまは3本です。

扇子は無地のものを使っている。日本将棋連盟では藤井聡太竜王や羽生善治九段らが揮毫した扇子も売っているが、その棋士と対戦したときに使いにくいため、選ばないそうだ

今期の戦いぶりを振り返って

――B級1組から持ち時間がチェスクロックからストップウオッチの6時間になり、終局は日付を超えることがほとんどです。総当たり、即降級もこれまでと違います。今期の戦いぶりを振り返ってみて、いかがですか。

横山 ひとつひとつの対局が重くなってきていて、特に年上の方から「負けないぞ」っていう気迫を感じます。

――前期は昇級枠3つでチャンスをつかみました。今期は13人のリーグで昇級2人、降級3人で厳しい戦いです。

横山 緊張感はありますが、本当に少しだけ気楽なんです。基本的に自分はそこまで上にいけるとは思っていません。順位戦の昇級もラッキー、ラッキーみたいな感じで、ここまできましたから。B級1組ではそれがよくないかもしれないし、絶対に落ちないっていう気持ちでやる必要があるかもしれないけど……。だって、僕は10年前にC級2組だったんですよ? どのクラスでもレベルが高いですし、いまもC級2組のままでおかしくなかったと思います。

 

――「勝ちたい」「逃したくない」という気持ちがプレッシャーに転化したこともあったでしょうし、どういう心境で臨むのがいいかはモチベーションとあわせて悩ましい問題です。

横山 順位戦に限らず、どの対局も時間があればあるだけ準備しています。時間を費やすことはできますから。

 ただ、かなり年下の棋士と指すのはやりにくさを感じます。子どものときに教えていたりすると、少し学校の先生のような気持ちになりますから。藤井聡太竜王は特別だから、思いっきりぶつかれるんですけど。

――年下との対戦は増える一方です。教え子に目の前に座られたとき、幼少の面影を見つけて「ああ、大きくなったなぁ」と対局前に感慨深くなったら、集中しにくいでしょう。

横山 背が全然違いますからね(笑)。ベテラン棋士が「子どもや孫ほど年齢が離れているとやりにくい」といっていた意味が、ようやくわかるようになりました。僕がC2のときに有吉先生(道夫九段。大山康晴十五世名人の弟子で、60歳でA級などベテランの域に入っても活躍した)と指したことがあるんですよ。当時70歳で、25歳で新人の僕に闘志をむき出しにして、負けたら不甲斐ない将棋を指したと自分に怒っているんですよね。こんなに年が離れているのに闘志が出せるんだ、だからずっと活躍できるんだと感動しました。