第2回女流ABEMAトーナメントの決勝トーナメントの組み合わせが送られてきたのは、2本目のチーム動画の撮影で、監督の藤井猛九段の誕生日をお祝いする日だった。

チーム動画での藤井九段お誕生日会の様子(写真提供:チーム西山)

8局目、私が勝てば最終局はリーダー対決に

 準決勝の対戦相手であるチーム里見は、私たちチーム西山と構成がよく似ている。予選を無敗で抜けてきた里見香奈女流四冠と西山朋佳女流三冠。絶対的なリーダーをそれぞれ持ち、その激突は誰もが見たい対戦である。

 チームで最大9局も指すのだから、どこかで見られるだろうと、ぼんやりと楽しみに思っていた。

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 準決勝当日。集合時間は予選の深夜までの連戦から一転、朝7時。ABEMAトーナメントは将棋の強さだけではなく、あらゆる条件にどれだけコミット出来るかも試される。

 第1局は私が出ることになった。相手は里見咲紀女流初段。初戦がチームにとって重要であるとともに、そこできっちりと力を出すのが難しいことは予選でわかっている。山口恵梨子ちゃんが持ってきてくれた栄養ドリンクを飲んで、対局に向かった。

 結果は全然ダメだった。負けたことよりも、手がまったく見えていない。長時間で戦う将棋よりも、ABEMAトーナメントでの超早指しは、その日の調子が勝敗に影響する。

「今日はダメかもしれない」と強い不安を覚える1局目となった。

西山さんは、いつもより少し声が低くなった気がした

 2局目に恵梨子ちゃんが清水市代女流七段に敗れ、スコアは0-2。星取りよりもリーダーを温存されているのが厳しい。相手チームとしてはリーダー対決を避けて5勝をあげる算段を立てられる。

 3局目は西山さんが出ることになった。順番通りに相手もリーダーが出てきて、そのリーダー対決で勝ってもらえれば、流れが変わるはずだ。

 作戦会議で3局目のカードが発表される。

「相手は里見咲紀女流初段です」の差し込みカンペを見た西山さんは、いつもより少し声が低くなった気がした。チーム西山が結成されて以来、私が初めて見た、西山さんの静かな怒りだった。