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 ひかりは心境を語る。

「母さんは完全に狂っていたと思う。でも、母さんに愛されていたっていう実感はあるんだ。望まない子だった自分をちゃんと産んでくれたし、姉ちゃん三人と違ってずっと手元に置いてくれた。

 覚えているのは、中2で家出した時のことだね。母さんに『親戚から金を借りて来い』って言われて、それが嫌で家を出て立体駐車場の陰に隠れて夜を明かしていたんだ。そしたら、母さんが車で街を何周もして捜してくれているのが見えた。それでものすごくホッとして家に帰ることにした。母さんは一言も怒らずに迎え入れて、『ご飯食べな』って言ってくれた。後で聞いたら、捜索願を出す寸前だったみたい。それを知って、すごく嬉しかったんだ」

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 一般には理解しがたい「愛情」かもしれない。だが、ひかりにとってはまぎれもなく人生に必要な存在だった。

理想の家庭

 桃子の死後、ひかりは再び祖母と暮らすことになった。

 祖母のアルコール依存は数年前より悪化しており、ほとんど1日中正体を失っていた。口を開けば、不平不満を吐き出し、ひかりを罵りだす。ひかりは毎日が苦痛で仕方がなかった。

 そうした中でネットを介して出会ったのが、千葉県に暮らす女性だった。名前は大下梢(仮名)、年齢は21歳だった。彼女は大学受験に失敗したショックで、2年ほど前からひきこもり生活をしていた。

 ひかりと梢はメールのやり取りを通してお互いを慰め合っていたのである。

 最初に、2人が直に会ったのはメールで知り合ってから数カ月後のことだった。ひかりが祖母とぶつかって家を飛び出したところ、梢から「うちに来てもいいよ」と言ってもらえたのだ。ひかりは不正乗車をして普通電車に乗って千葉の家まで会いに行った。

 この時、ひかりは家に数日間泊めてもらって帰宅したが、それ以降、度々遊びに行くようになった。

 梢の両親には心配をかけたくなかったので、20歳だと嘘をついていた。

 何度目かの泊まりの時、梢からこう言われた。

「もし下田の家にいるのがつらいなら、うちに住んだらいいよ。よければ、私から親に頼んでみるよ」

 ひかりは梢の言葉に甘えたかったが、懸念が一つあった。梢の父親は、現役の刑事だったのだ。家に住まわせてもらうのなら、本当の年齢を打ち明けなければならないが、15歳の少女となれば立場上受け入れるのは難しい。

 それでも下田の家を出たいという気持ちは強かったため、ひかりは断られるのを承知で、まずは梢の母親にすべてを打ち明けた。母親は、15歳だったことに驚いた様子だったが、こう言ってくれた。