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 悩んだ末に、ひかりは梢や彼女の両親にそれを話した。将来を考えて、この家を出てヘルパーとして生きていきたいとつたえたのだ。みんなひかりの気持ちを理解し、応援してくれた。口には出さなかったが、ずっと心配してくれていたのだろう。ひかりは、それまでの感謝をつたえ、家を出ることにした。

男として生きる

 それから十数年が経った今、ひかりは千葉県内で男性として生きている。

 性転換の治療を受けたのは、20歳になってすぐだった。メンタルクリニックを受診して性同一性障害の診断書を出してもらい、男性ホルモンの注射を打ちはじめた。2週間に1回3000円程度の注射をすることで、徐々に体を男性化させていくのだ。

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 最初に起きたのは声の変化で、次が身体の変化だった。女性特有の体の丸みがなくなり、ゴツゴツとした男性体型になっていく。同時に体毛が濃くなり、1年ほどすると喉ぼとけが出て髭が生えだした。そして2年ほどのうちに、見た目は完全に男性となった。

 現在、ひかりは建設会社で金属加工の職に就いている。梢の家を出て就いたヘルパーの仕事はやりがいがあったが、自分には男らしい作業系の仕事が性に合っていると考え直したという。今は、飲食店で知り合った20代前半の女性の恋人もいて、同棲している。仕事が終わった後、その恋人と過ごすことが何よりの幸せだそうだ。

 ひかりは人生を振り返ってこう語る。

「自分にとって、梢の家族との出会いがものすごく大きかったね。言ってしまえば、誰と出会えるかって運だと思う。家出をしたことで、ヤバい人間に出会って人生をかき回されちゃう人もいるけど、自分の場合は梢の家族と会えたことで人生がいい方向へ回りはじめた。梢のお父さんにしても、人としてとにかく温かい人だった。どんな環境で育っても、そういう出会い一つで人生が変わるなら、人生には希望があるって言えるんじゃないかな」

 ひかりは、性転換してから、梢の家族に会いに行けていないそうだ。家に住まわせてもらっていた間、性同一性障害であることを隠していたので、現在の姿を見せて驚かせたくないという気持ちが強いのだという。

 しかし、このインタビューが終わった時、ひかりはこんなふうにつぶやいた。

「昔の話をしていたら、なんだか梢の家族に会いたくなったな。そろそろ会いに行ってみようかな」

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